こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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不安性(回避性)パーソナリティ障害

F60.6 不安性(回避性)パーソナリティ障害 Anxious(avoidant) personality disorder / 回避性パーソナリティ障害Avoidant personality disorder

疾患の具体例

24歳、女性。子どもの頃から引っ込み思案で、いつも孤立していました。本当は皆の輪に入りたくても、拒絶されるのが怖くて、一人で過ごすことがほとんどでした。学生時代にアルバイトをしていましたが、先輩に注意されたことから、自分はみんなに嫌われていると思い、すぐ辞めてしまいました。大学を卒業後、あまり人と接触しない仕事を探していますが、自分の話し方や振る舞いを笑われるのではないかと面接を受ける前から心配し、就業できずにいます。

特 徴

不安性(回避性)パーソナリティ障害の基本的特徴は、批判されたり、嘲笑されたり、恥をかいたりすることを恐れるがあまり、人との接触を過度に避けようとすることです。その結果、職業上の機能を果たせない場合があります。例えば、責任ある役職を与えられそうになっても、同僚から批判されるかもしれないという理由で昇進を断る人がいます。あるいは、スーツの着こなしが変だと思われないか心配で、就職の面接を断ってしまう人もいます。
基本的に内気で、静かで、常に目立たないようにしています。自分のことを長所がなく、他人より劣っていると思っており、批判に対して赤面したり、泣き出したりすることを非常に心配しています。自分が何かを言っても周囲に受け入れられないだろうと考え、言いたいことを我慢したり、親しくなりたい気持ちを抑えたりします。周囲からは、内気で臆病で、孤独で、孤立した人だと思われがちです。
回避性パーソナリティ障害のある人は、本心では社交的な活動に参加したいと望んでいるのに、それができません。誰かが少しでも批判的なことを言ったり、拒絶と受け取れる反応をしたりすると、過度に深刻にとらえ、とても傷ついた気持ちになります。好かれていることや、批判されないことが確証されない限り新しい友人を作ろうとせず、繰り返し支持され、世話をされなくては集団活動には加わりません。しかし、批判なしで受け入れられるという保証があれば、親密な関係をもつことも可能です。

有病率

2001~2002年に行われた「全米におけるアルコールおよび関連疾患に関する全国疫学調査」によると、回避性パーソナリティ障害の有病率は約2.4%と推測されています。男女比は同程度と考えられています。

経 過

人との接触を避けようとする「回避行動」は、幼児期または小児期に始まります。小児期の内気さは、回避性パーソナリティ障害の前兆ですが、ほとんどの人は成長と共に消えていく傾向があります。それに対し、実際に回避性パーソナリティ障害を発症する人は、親しい人との関係が重要になる青年期や成人期早期にますます内気になり、人との接触を避けるようになるかもしれません。 多くの回避性パーソナリティ障害の患者さんは、守られた環境におかれれば社会生活を送ることができます。結婚し、子どもをもち、家族のみに囲まれた生活をする人もいます。しかし、守ってもらえなくなると抑うつ、不安、そして怒りっぽくなりやすい傾向があります。

治 療

精神療法:
集団療法によって、拒絶に対する敏感さが、自分や周囲にどう影響するかを理解できるようになる場合があります。自己主張訓練は、患者さんに率直に要求を表現させ、自己評価を改善させられる可能性があります。

薬物療法:
不安と抑うつが回避性パーソナリティ障害に随伴する場合、薬物療法が用いられます。恐怖を感じる状況が近づくと刺激される自律神経系機能に対して、アテノロール(テノーミン)のようなβブロッカーが有効なことがあります。セロトニン作動性薬物が、拒絶への感受性をやわらげる可能性もあります。

診断基準:ICD-10

以下によって特徴づけられるパーソナリティ障害:

  1. 持続的ですべてにわたる緊張と心配の感情。
  2. 自分が社会的に不適格である、人柄に魅力がない、あるいは他人に劣っているという確信。
  3. 社会的場面で批判されたり拒否されたりすることについての過度のとらわれ。
  4. 好かれていると確信できなければ、人と関わることに乗り気でないこと。
  5. 身体的な安全への欲求からライフスタイルに制限を加えること。批判、非難あるいは拒絶をおそれて重要な対人的接触を伴う社会的あるいは職業的活動を回避すること。 関連病像には拒絶および批判に対する過敏さが含まれる。

診断基準:DSM-5

社会的抑止、不全感、および否定的評価に対する過敏性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、 種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。

  1. 批判、非難、または拒絶に対する恐怖のために、重要な対人接触のある職業的活動を避ける。
  2. 好かれていると確信できなければ、人と関係をもちたがらない 。
  3. 恥をかかされる、または嘲笑されることを恐れるために、親密な関係の中でも遠慮を示す。
  4. 社会的な状況では、批判される、または拒絶されることに心がとらわれている。
  5. 不全感のために、新しい対人関係状況で制止が起こる。
  6. 自分は社会的に不適切である、人間として長所がない、または他の人より劣っていると思っている。
  7. 恥ずかしいことになるかもしれないという理由で、個人的な危険をおかすこと、または何か新しい活動にとりかかることに、異常なほど引っ込み思案である。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)