こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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中度[中等度]精神遅滞[知的障害]

F71 中度[中等度]精神遅滞[知的障害] Moderate mental retardationn

疾患の具体例

28歳、女性。小学校入学時から、特別支援学級に通っていました。普通学級の子どもたちとの違いに疎外感を覚えることもありました。それでも、適切な教育を受けられたために、周囲と簡単なコミュニケーションをとる技能を身につけました。親元に住みながら企業の障害者雇用枠に就職し、清掃の仕事に携わっています。

特 徴

中等度精神遅滞は、IQ(知能指数)が35~49の範囲とされています。幼少期の発達段階において、言語を理解したり使ったりする発達が遅く、最終的な達成度に限界があります。身のまわりのことや、運動能力の発達も遅れ、生涯を通じて支援を必要とする人もいます。学校での勉強にも限界があります。しかし、何割かの人達は、適切な教育を受けることによって、読み書きと数えることは身につけられます。
大人になってからは、適切な監督ができる人のもとにおいて、単純作業の仕事をする人もいます。中等度精神遅滞のある人たちは、身体的には活動的であり、人とコミュニケーションをとり、単純な社会的活動に従事する能力を持っているのです。それでも、完全に自立した生活ができる人はまれだとされています。

有病率

精精神遅滞全体のおよそ10%です。

経 過

中等度精神遅滞は、軽度より早く診断されます。意思伝達技能がゆっくりと発達するため、小学校入学時には社会的孤立が始まります。本人は、自分の障害を自覚し、仲間とは違うことをしばしば認識しています。能力に制限があることで、欲求不満状態になりやすい傾向があります。
適切な教育を受けることで、ほとんどのケースで言語を習得し、小児期早期の間に十分なコミュニケーションを取れるようになります。しかし、小学校2~3年生以上の学力を身につけることはできないとされています。青年期になっても社会に溶け込むことが難しいと感じることが多くあります。

診断基準:ICD-10

もIQは通常35から49の範囲である。この群では諸能力間の食い違いのあるプロフィルが認められる者もよくあり、言語に依存する課題よりも視空間技能でより高い水準に達している者もいれば、一方、不器用が目立つが社会的交流や単純な会話を楽しむ者もいる。言語発達の程度はさまざまである。ある者は単純な会話に参加できるのに、ある者は基本的欲求を伝えられる程度の言語しかもたない。ある者は言語が使えるようにはならないが、単純な指示は理解し、言語障害を補うために少なからず用手サインを使えることがある。中度精神遅滞をもった人のほとんどで器質的病因が同定できる。小児自閉症あるいはその他の広汎性発達障害が少数だが存在し、臨床像およびニーズの対応の仕方に大きく影響する。てんかん、そして神経学的および身体障害もふつうに認められるが、ほとんどの中度遅滞をもった人は介助なしで歩行は可能である。他の精神医学的状態を同定できることもあるが、言語発達水準の低さのため診断が困難であり、その者をよく知っている他の人から得た情報に頼らざるを得ないことがある。このような合併障害はいずれも独立にコードすべきである。

診断基準:DSM-5

概念的領域
発達期を通じてずっと、個人の概念的な能力は同世代の人と比べて明らかに遅れる。学齢期前の子どもにおいては、言語および就学前技能はゆっくり発達する。学齢期の子ども達において、読字、書字、算数および時間や金銭の理解の発達は学齢期を通じてゆっくりであり、同年代の発達と比べると明らかに制限される。成人において、学習技能の発達は通常、初等教育の水準であり、仕事や私生活における学習技能の応用のすべてに支援が必要である。1日の単位で、継続的に援助することが毎日の生活の概念的な課題を達成するために必要であり、他の人がその責任を完全に引き受けてしまうかもしれない。

社会的領域
社会的行動およびコミュニケーション行動において、発達期を通じて同年代と明らかな違いを示す。話し言葉は社会的コミュニケーションにおいて通常、第1の手段であるが、仲間達と比べてはるかに単純である。人間関係の能力は家族や友人との関係において明らかとなり、生涯を通してよい友人関係をもつかもしれないし、時には成人期に恋愛関係をもつこともある。しかし、社会的な合図を正確に理解、あるいは解釈できないかもしれない。社会的な判断能力および意思決定能力は限られており、人生の決定をするのを支援者が手伝わなければならない。定型発達の仲間との友情はしばしばコミュニケーションまたは社会的な制限によって影響を受ける。職場でうまくやっていくためには、社会的およびコミュニケーションにおけるかなりの支援が必要である。

実用的領域
身人として食事、身支度、排泄および衛生といった身のまわりのことを行うことが可能であるが、これらの領域で自立するには、長期間の指導と時間が必要であり、何度も注意喚起が必要となるかもしれない。同様に、すべての家事への参加が成人期までに達成されるかもしれないが、長期間の指導が必要であり、成人レベルのできばえを得るには継続的な支援が通常必要になるだろう。概念的およびコミュニケーション技能の必要性が限定的な仕事には自立して就労できるだろうが、社会的な期待、仕事の複雑さ、および計画、輸送手段、健康上の利益、金銭管理などのそれに付随した責任を果たすためには、同僚、監督者およびその他の人によるかなりの支援が必要である。さまざまな娯楽に関する技能は発達しうる。通常、これらの能力は長期にわたるさらなる支援や学習機会を必要とする。不適応行動がごく少数に現れ、社会的な問題を引き起こす。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)