こころのはなし
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社会的(語用論的)コミュニケーション
307.9(F80.89)社会的(語用論的)コミュニケーション症/社会的(語用論的)コミュニケーション障害 Social (Pragmatic) communication disorder
疾患の具体例
8歳、男児。幼児健診でたびたび言葉の遅れが指摘されていました。小学生になってからも言葉が少なく、相づちをうったり、誤解されたことを言い直したりすることができません。学校の成績は低く、クラスで孤立しています。
特 徴
社会的(語用論的)コミュニケーション症は、言語障害の一つです。言葉の意味そのものはわかっていても、話し相手や状況に応じたコミュニケーションが困難なことが特徴です。例えば、相手が子どもだからわかりやすくゆっくり話したり、図書館の中で静かに話したりといったことができません。会話の文脈を理解することも苦手で、慣用句やユーモアを字義通りに受け取ったり、いつも堅苦しい話し方しかできなかったりもします。そのため、コミュニケーションがうまく取れず、人間関係や学業成績に著しい影響が生じます。
従来は、自閉性障害やレット障害、アスペルガー障害などとともに「広汎性発達障害」と分類されていましたが、2013年に発行された「DSM-5」で「社会的(語用論的)コミュニケーション症」という新しい分類名になりました。自閉スペクトラム症にも似た症状が現れますが、こちらは特定の物事に対する興味の偏りや、反復的行動を伴う点で異なります。
なお、社会的(語用論的)コミュニケーション症のある人は、幼い頃に言葉の発達が遅れていたり、過去に言語機能障害があったりすることが多いようです。言語や会話がある程度発達する4歳になるまでは、あまり診断されず、言語や社会的交流が複雑になる青年期早期まで明らかにならない人もいます。
有病率
この障害の有病率は明らかになっていません。
経 過
個人差が大きく、何もしなくても数年で改善する人もいれば、大人になっても困難が持続する人もいます。例え症状は改善しても、幼少期にこの障害があったことで生じた学業成績や対人関係の問題が長引く人もいます。
原 因
家族に自閉スペクトラム症や、限局性学習症のある人がいると、社会的(語用論的)コミュニケーション症のリスクが高まります。そのため、この障害の発生には遺伝的な影響が関係していると考えられています。しかし、言語症やADHDを併発することも多いことから、遺伝以外に環境や発達上の問題も関係している可能性があります。
治 療
社会的(語用論的)コミュニケーション症に対する治療で、明確なエビデンス(科学的根拠)のあるものはほとんどありません。
診断基準:DSM-5
- 言語的および非言語的なコミュニケーションの社会的使用における持続的な困難さで、以下のうちすべてによって明らかになる。
- 社会的状況に適切な様式で、挨拶や情報を共有するといった社会的な目的でコミュニケーションを用いることの欠陥)
- 遊び場と教室とで喋り方を変える、相手が大人か子どもかで話し方を変える、過度に堅苦しい言葉を避けるなど、状況や聞き手の要求に合わせてコミュニケーションを変えるための能力の障害
- 会話で相づちを打つ、誤解されたときに言い換える、相互関係を調整するための言語的および非言語的な合図の使い方を理解するなど、会話や話術のルールに従うことの困難さ
- 明確に示されていないこと(例:推測すること)や、字義どおりでなかったりあいまいであったりする言葉の意味(例:慣用句、ユーモア、隠喩、解釈の状況によっては複数の意味をもつ話)を理解することの困難さ
- それらの欠陥は、効果的なコミュニケーション、社会参加、社会的関係、学業成績、および職業的遂行能力の1つまたは複数に機能的制限をもたらす。
- 症状の始まりは発達期早期である。
- 症状は発達期早期より出現している(しかし、能力の限界を超えた社会的コミュニケーションが要求されるまでは、その欠陥は完全には明らかにならないかもしれない)
- その状況は他の医学的または神経疾患、および言語の構造や文法の領域における能力の低さによるものではなく、自閉スペクトラム症、知的能力障害(知的発達症)、全般的発達遅延、および他の精神疾患ではうまく説明されない。
※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)