こころのはなし

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特異的算数能力障害

F81.2 特異的算数能力障害[算数能力の特異的障害] Specific disorder of arithmetical skills

疾患の具体例

8歳、女児。小学校入学当初から、数を覚えられないようであると、担任の教師が気付きました。2年生になっても、一桁の足し算、引き算ができません。数を数えること自体が困難で、指を使っても計算が理解できません。一方で、算数以外の教科は問題なく学べています。親と教師が相談し、しばらくは様子を見ていましたが、3年生になっても状況が変わらないため病院を受診しました。個別的な検査を行った結果、特異的算数能力障害と診断されました。

特 徴

WHOの診断ガイドライン「ICD-10」で解説されている「特異的算数能力障害」は、同じ年齢、同等の知的能力の子どもに期待されるよりも、著しく算数を学習したり覚えたりすることが困難な障害です。アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5」では、「限局性学習症/限局性学習障害」の一種として分類されています。「カプラン 臨床精神医学テキスト」では「算数障害」として解説されています。 この障害は、高度で複雑な算数問題ができないというより、足し算、引き算のような基本的な計算力の習得に関係しています。以下の4つの領域の能力が障害されていると考えられます。

言語能力…算数の用語を理解し、問題を演算記号に置き換えることに関連した能力
知覚能力…算数の記号を認識、理解し、一群の数字を整理する能力
計算力…基本的な足し算、引き算、かけ算、割り算と、算数の基本的操作を順序正しく行う能力
注意力…数字を正しく写し、記号を正しく理解する能力
算数障害は、言語および読字の障害と関連して生じることもあれば、独立して生じることもあります。算数能力が欠落することで、学校の成績は低迷しがちです。

有病率

「カプラン 臨床精神医学テキスト」によると、算数障害単独の有病率は学童期の子どもの約1%で、学習障害の子どものおよそ5人に1人と推定されています。算数障害は、おそらく女児のほうが男児よりも多く生じると考えられています。

経 過

算数障害は、通常、小学校3年生までに特定されます。しかし個人差があり、小学校1年生のうちに明らかになる場合や、5年生またはそれ以降になってから出現することもあります。診断後の経過はほとんど研究されていません。

原 因

他の学習障害と同様に、おそらく原因の一つに遺伝があると考えられています。

診断基準:ICD-10

小児の算数の出来ばえは、年齢、全体的知能、学校での処遇に基づいて予想される水準を明らかに下まわっていなければならず、そして最も好ましいのは個別的に施行される標準化された算数テストに基づいて評価することである。読字力と綴字力は精神年齢から予想しうる正常な範囲内になければならず、なるべく個別的に施行される適切に標準化された検査で評価すべきである。算数の困難は主としてきわめて不適切な教育、視覚、聴覚あるいは神経学的機能の欠陥の直接的な影響によるものがあってはならず、そして神経学的、精神医学的、あるいは他の障害の結果として獲得したものであってはならない。  算数障害は読字障害よりも研究されていないので、前駆様態、経過、関連因子および転帰についての知識はごく限られている。しかしながら、この障害のある小児は聴覚-知覚力と言語力は正常範囲内にある傾向がみられる。しかし視覚力-空間および視覚-知覚力は損なわれている。このことは多くの読字障害の小児と対照的である。社会-情緒-行動上の問題を伴っている小児もあるが、その特徴や出現頻度についてはほとんど知られていない。とりわけ社会的相互関係の困難が共通している、と示唆されるようになっている。
算数の困難さはさまざまな現れ方をするが、次のようなものが含まれる。特殊な算数操作の基本となる概念を理解できないこと。算数用語や符号の理解に欠けること、数字を認識しないこと、標準的な算数操作を行うことが困難であること、考えている算数問題に関してその数字が適当かを理解することが困難であること。数字を正しく並べることが困難である、あるいは計算中に小数や記号を挿入することが困難であること、算数計算の空間的な組立てが下手であること、掛け算表を十分に学習できないこと。

<含> 発達性計算不能
 発達性算数障害
 発達性ゲルストマン症候群
<除> 後天性算数障害(計算不能)(R48.8)
 読字あるいは綴字障害に関連した算数の困難(F81.1)
 主に不適切な教育に帰する算数の困難(Z55.8)

診断基準:DSM-5

※限局性学習症/限局性学習障害より
該当すれば特定せよ

(F81.2)算数の障害を伴う:
数の感覚
数学的事実の記憶
計算の正確さまたは流暢性
数学的推理の正確さ
注:失算症は数値情報処理、数学的事実の学習、および正確または流暢な計算の実行の問題に特徴づけられた困難さの様式について用いられる代替用語である。失算症がこの特別な算数の困難さの様式を特定するために用いられる場合、数学的推理または語の推理の正確さの困難といった付加的な困難さを特定することも重要である。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)