こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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統合失調症

F20 統合失調症 Schizophrenia

疾患の具体例

21歳、男性。大学に通っていますが、1年ほど前から友達に悪口を言われているような気がするようになりました。心の中で思っていることを周囲に見透かされているように思えて、他人の視線や話し声が怖く、大きな不安を感じます。どこからともなく自分の一挙手一投足を解説する声が聞こえ、大学の授業中に大声を上げてしまい、他の学生から奇異の目で見られることもありました。気分は抑うつ的になり、何かを考えようとしても集中力が持続しません。大学も休みがちになり、心配した家族と一緒に精神科を受診すると、「統合失調症」と診断されました。

症 状

統合失調症は、認知・行動・情動などの面に障害が起こりますが、症状は人によってさまざまです。たとえば、極めて個人的な考えや行動が他者に知られているように感じたり、目に見える色彩や、耳から聞こえる音がやたら生々しく感じたりします。特段、おかしなことがないのに笑ったり、逆にささいなことで不安になったり、怒ったりすることもあります。食べることに興味を失い、食事を拒むこともあります。また、何かを考えていても途中で思考が途切れたり、それたりしてしまう人もいます。自分の考えが誰かに奪い取られるように感じることもあります。
若い男性や、過去に暴力歴のある人、物質乱用のある人などは、攻撃性を伴うこともあります。しかし、自発的・突発的な攻撃はまれで、むしろ高い頻度で暴力行為の犠牲者になっていると言われます。
なお、通常は意識がハッキリしており、知的能力も保たれています。しかし、自分では病識がないことが少なくありません。

経 過

通常10代後半~30代半ばに出現します。性別によって発病時期のピークが若干異なり、男性は20代前半~半ば、女性は20代後半です。突然、発症することもありますが、大多数はさまざまな徴候や症状が徐々に現れます。 経過と予後の予測が難しい疾病ですが、約20%は良好な経過をたどると言われ、少数の人では完全に回復することが報告されています。しかし大半は日常生活支援を必要とします。急性期症状が悪くなったり、落ち着いたりする状態を繰り返しながら、病状が進行し、荒廃していく人もいます。。

特 徴

統合失調症の生涯有病率は約0.3~0.7%と推定されますが、人種・民族、国によるばらつきがあります。罹患率は女性のほうが若干低い傾向があります。

原 因

ハッキリとした原因は解明されていません。しかし脳の辺縁系、前頭皮質、小脳、脳幹神経節などに何らかの原因があるという研究が進められています。 また、母親が妊娠・出産時に低酸素症を伴う合併症を起こしたり、栄養失調、糖尿病などになったりすることが、子どもの統合失調症と関連があるとされています。また、父親が高年齢であることも統合失調症になるリスクを高めると言われます。ただし、そうしたリスクのあるケースにおいても、発症しない人が大勢います。
若くして発症した患者も、歳をとるにつれて症状が治まる傾向がありますが、加齢によって脳内のドパミンが減少することと関連している可能性があります。 なお、統合失調症を対象とした放射線医学的検査、臨床検査、心理学的検査は存在しません。しかし、神経画像研究、神経病理学研究、神経生理学研究などが進んでおり、健康な人と統合失調症の人とは複数の脳部位での差異が認められています。

治 療

抗精神病薬による治療が行われます。主に2種類の薬があり、1つは「ドパミン受容体拮抗薬」、もう1つは「セロトニン・ドパミン拮抗薬」です。服薬による治療の最低限の期間は4~6週間で、もしあまり効果がないようなら、異なる系列の抗精神病薬を試みることが推奨されています。 薬物治療の他には、心理社会的治療法や職業療法もあります。

治 療

  1. 考想化声、考想吹入あるいは考想奪取、考想伝播。
  2. 支配される、影響される、あるいは抵抗できないという妄想で、身体や四肢の運動や特定の思考、行動あるいは感覚に関するものである。それに加えて妄想知覚。
  3. 患者の行動を実況解説する幻声、患者のことを話し合う幻声。あるいは身体のある部分から聞こえる他のタイプの幻声。
  4. 宗教的あるいは政治的身分、超人的力や能力などの文化的にそぐわないまったくありえない他のタイプの持続的妄想(たとえば、天候をコントロールできるとか宇宙人と交信しているなど)。
  5. どのような種類であれ、持続的な幻覚が、感情症状ではない浮動性や部分的妄想あるいは持続的な支配観念を伴って生じる、あるいは数週間か数カ月間毎日継続的に生じる。
  6. 思考の流れに途絶や挿入があるために、まとまりのない、あるいは関連性を欠いた話し方になり、言語新作がみられたりする。
  7. 興奮、常同姿勢あるいはろう屈症、拒絶症、緘黙、および昏迷などの緊張病性行動。
  8. 著しい無気力、会話の貧困、および情動的反応の鈍麻あるいは状況へのそぐわなさなど、通常社会的引きこもりや社会的能力低下をもたらす「陰性症状」。それは抑うつや向精神薬によるものでないこと。
  9. 関心喪失、目的欠如、無為、自己没頭、および社会的引きこもりとしてあらわれる、個人的行動のいくつかの側面の質が全般的なに、著明で一貫して変化する。

統合失調症の診断のために通常必要とされるのは、上記の(a)から(d)のいずれか1つに属する症状のうち少なくとも1つの明らかな症状(十分に明らかでなければ、ふつう2つ以上)。あるいは(e)から(h)の少なくとも2つの症状が、1カ月以上、ほとんどいつも明らかに存在していなければならない。

診断基準:DSM-5

  1. 以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのが1カ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくとも1つは(1)か(2)か(3)である。
    (1) 妄想
    (2) 幻覚
    (3) まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
    (4) ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
    (5) 陰性症状(すなわち感情の平板化、意欲欠如)
  2. 障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。
  3. 障害の持続的な徴候が少なくとも6カ月間存在する。この6カ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1カ月(または、治療が成功した場合はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例i奇妙な信念、異常な知覚体験)で表されることがある。
  4. 統合失調感情障害と「抑うつ障害または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」が以下のいずれかの理由で除外されていること。
    (1) 活動期の症状と同時に、抑うつエピソード、躁病エピソードが発症していない。
    (2) 活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、
       疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。
  5. その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
  6. 自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーシ∃ン症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加え、少なくとも1カ月(または、治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えられる。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)