こころのはなし
こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。
感応性妄想性障害
F24 感応性妄想性障害 Induced delusional disorder
疾患の具体例
47歳、女性。体の弱い実母と二人暮らし。女性は20年ほど前から統合失調症を患っていました。幻覚や妄想が激しく、近所の人が自分の悪口を言っているような気がしたり、体を虫が這うような感覚がしたりで苦しんでいます。いつしか、母親も同じような妄想を感じるようになりました。女性が病院を受診する際は母親も同行します。女性が医師の問診を受けている時、隣に付き添っている母親も同じように幻覚や妄想について話します。その話しぶりは確信を持っており、母親自身も妄想を見ていることが分かります。主治医は、母子を「感応性妄想性障害」と診断しました。
症 状
強く気持ちがつながっている2人、またはそれ以上のグループに妄想性障害が共有された状態です。それらのうち、本当の精神病性障害にかかっているのは1人だけで、他の人に妄想が感応する(移る)ことで、症状が現れます。妄想の内容は、誰かに攻撃されたり、尾行されたりなど迫害的か誇大的な内容が一般的です。
特 徴
珍しい疾患で、発症率や有病率は不明です。先に精神病になった側は、統合失調症であることが多くみられますが、いつもそうとは限りません。 2人は長年にわたって同居しており、妄想が移った側の人は、本当の精神病にかかっている人に対して献身的だったり、依存的だったりすることが多いとされています。患者さんたちはお互いに親密ですが、周囲から孤立しているのが典型的です。夫婦関係、親子関係、あるいは宗教の指導者と信者の関係に見られる障害とも言われます。
治 療
入院治療をする場合は、別々の病室に入院させ、相互の交流をたつようにします。
予 後
2人を分離すると、より健康な人のほうから症状が消えていきます。一方、より病状が重いほうはそのまま症状が続くことがあります。
原 因
詳細は分かっていませんが、アルコール依存などが危険因子になるのではないかと考えられています。また、「特発性精神病」も危険因子として指摘されています。
診断基準:ICD-10
感応性妄想性障害の診断は、以下の場合にのみくだすべきである。
- 2人以上の人物が同一の妄想あるいは妄想体系を共有し、その信念でお互いを支え合っている。
- 彼らは上記の性質を持った以上に親密な関係にある。
- 当の2人あるいはグループのうち妄想を受け取る者が、妄想を与える能動的な一員と接触することによって、妄想に感応したいという時間的な、あるいは他の前後関係上の証拠がある。
感応性の幻覚というのはまれであるが、それによって診断が否定されることはない。しかしながら、一緒に生活している2人の人物が別々の精神病性障害に罹患していると信ずべき根拠があれば、たとえ妄想がいくらか共有されるところがあっても、ここに分類すべきではない。
診断基準:DSM-5
記載なし
※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)