こころのはなし
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他の医学的疾患による双極性障害および関連障害
他の医学的疾患による双極性障害および関連障害 Bipolar and Related Disorder Due to Another Medical Condition
疾患の具体例
44歳女性、自宅で脳梗塞を発症して倒れ、救急搬送されました。命に別状はなく、後遺症もそれほどありませんが、入院中から精神面に異常が現れました。やけにテンションが高く、周囲が困るほど怒りっぽく、医療スタッフに攻撃的な態度をとります。夜も寝ないで大声をあげるなどしたことから、精神科を紹介されました。
特 徴
「他の医学的疾患による双極性障害および関連障害」の基本的特徴は、何らかの病気によって双極性障害が引き起こされることです。原因となる病気を発症した初期(1カ月以内)、あるいは悪化や再発をした時に、躁または軽躁症状が現れます。その場合、異様に気分が高揚したり、開放的になったり、怒りっぽくなったりします。あるいは、異常なまでに活動的になることもあります。
この障害と診断されるには、それまでの病歴や体の状態、検査結果などから、躁・軽躁症状が病気によって直接的に引き起こされたと認められなくてはなりません。また、躁・軽躁症状があるがために、仕事や学業など生活するうえで重要な領域に支障を来していること、他の精神疾患ではうまく説明がつかないことなども診断要件になっています。
なお、何らかの病気になる前から躁・軽躁症状がある場合は、「他の医学的疾患による双極性障害および関連障害」ではなく、通常の双極性障害と診断されると考えられます。
経 過
「他の医学的疾患による双極性障害および関連障害」の経過は、元となる病気の経過とつながっています。躁・軽躁症状の治療が有効だった場合、元となる病気が寛解する前後に双極性障害も寛解することがあります。一方、双極性障害の症状によって、元となる病気の治療が妨げられたり、悪化したりすることがあります。 一般的に、クッシング病が原因となる双極性障害であれば、クッシング病が治癒すれば(または進行を抑制できれば)双極性障害が再発することはないと考えられています。しかし、治癒が難しい脳損傷や中枢神経系の病気の場合は、再発する可能性もあります。
原 因
「他の医学的疾患による双極性障害および関連障害」の原因となる病気は、脳卒中や外傷性脳損傷、クッシング病、多発性硬化症などがあげられます。クッシング病は、コルチゾールというホルモンが過剰に分泌されることによって太ったり、顔が丸くなったり(満月様顔貌)する難病です。ほかに、全身性エリテマトーデスが原因になることもあります。こちらは発熱、全身倦怠感、関節痛といった全身症状、皮膚症状(発疹など)、内蔵の症状(腎炎など)が現れる難病で、原因不明です。
診断基準:DSM-5
- 異常に高揚した、開放的な、または易怒的な気分と、活動性または活力の異常な増加が臨床像において優勢である期間が顕著かつ持続性に存在する。
- 病歴、身体診察所見、または検査所見から、その障害が他の医学的疾患の直接的な病態生理学的結果であるという証拠がある。
- その障害は、他の精神疾患ではうまく説明できない。
- その障害は、せん妄の経過中にのみ起こるものではない。
- その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしているか、自己または他者を傷つけるのを防ぐために入院が必要であるか、または精神病性の特徴が存在する。
※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)