こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

重篤気分調節症

重篤気分調節症 Disruptive Mood Dysregulation Disorder

疾患の具体例

9歳男児。幼児の頃から常にぐずりがちで、よく怒る性格でした。小学生になっても改善する様子はありません。家にいても学校にいても、通常は怒らないようなことでかんしゃくを起こし、物を投げたり壊したり、周囲の人に八つ当たりすることがよくあります。ある時、友人を突き飛ばしてけがをさせたことから、クラスの中で孤立するようになりました。イライラしてばかりで勉強も手に付かず、親や教師が何を言っても泣いたり、怒ったりしています。

特 徴

重篤気分調節症は抑うつ障害の一種です。主に子どもに現れ、発達に相応しくないほど激しい易怒性(怒りっぽさ)が慢性的に(1年以上)持続することが基本的特徴です。2つの特徴的な症状があります。

◎頻回のかんしゃく発作
自分の思い通りにならないことへの不満から、暴言を発したり、自分や他人に攻撃的な行動をとったりします。 それは通常の発達に相応しくないほど激しいものです。平均して週に3回以上、かつ1年以上にわたり、学校と家庭など2つ以上の画面で起こります。

◎かんしゃく発作のない期間も、怒りの気分が続いてい
慢性的で持続的な易怒的、または怒りの気分が、かんしゃくを起こさない時でもほとんど毎日、1日中続きます。それは周囲の人が気づくほどのものです。

この障害のある子どもは、しょっちゅうかんしゃく発作を起こしたり、普段から怒りっぽかったりするため、家族関係や友人関係をうまく築けない傾向があります。欲求不満の状態に耐えられる力が極めて低いことから、コツコツ勉強をすることが難しく、学校の成績も低くなりがちです。また、定型発達の子ども(健常児)が普通に楽しむ活動に、参加できないこともよくあります。危険な行動や自殺企図(自殺未遂)をするリスクが高く、精神科への入院が多いとも報告されています。

なお、重篤気分調節症は、アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル『DSM-5』で初めて追加された障害です。それ以前は、双極性障害や反抗挑発症、ADHD、間欠爆発症が合併した状態と診断されていました。しかし、その後の研究によって、こうした子どもは青年期後期以降も典型的な双極性障害になるわけではないとわかったため、診断基準が見直されました。

有病率

推定有病率は不明ですが、重篤気分調節症の特徴的症状である「慢性で激しい持続的な易怒性」のある子どものうち、半年~1年にわたる有病率はおそらく2~5%と見積もられています。女児より男児、青年期より学童期に多いと予想されます。

経 過

重篤気分調節症は10歳以前に発症し、6歳以降から診断されます。子どもの成長に伴って症状は変わりますが、約半数の患者さんは1年後にも診断基準を満たす病状にとどまると考えられています。なお、この障害のある子どもが将来的に双極性障害になることは非常にわずかです。一方で、大人になってから単極性抑うつ障害や不安症群を発症する危険性が高いとされています。

原 因

気質要因:
慢性的な易怒性を示す子どもは、複雑な精神科病歴を持っていることが典型的です。もともと、非常に広範で慢性的な易怒性を持っており、ADHDや不安症、うつ病の診断基準を満たす子どももいます。

治 療

重篤気分調節症は原因が分かっていないため、治療は対処療法しかありません。病態生理が単極性うつ病と不安症に似ている場合は、しばしばADHDを合併することを考慮してSSRIや精神刺激薬が第一選択薬になると考えられます。しかし、病態生理が双極性障害に近ければ、非定型抗精神病薬と気分安定薬が第一選択薬になると考えられます。また、認知行動療法などの心理社会的介入は、おそらく重篤気分調節症の基本的な治療の一部となるでしょう。

診断基準:DSM-5

  1. .言語的(例:激しい暴言)および/または行動的に(例:人物や器物に対する物理的攻撃)表出される、激しい繰り返しのかんしゃく発作があり、状況やきっかけに比べて、強さまたは持続時間が著しく逸脱している。
  2. かんしゃく発作は発達の水準にそぐわない。
  3. かんしゃく発作は、平均して週に3回以上起こる。
  4. かんしゃく発作の間欠期の気分は、ほとんど1日中、ほとんど毎日にわたる、持続的な易怒性、または怒りであり、それは他者から観察可能である(例:両親、教師、友人)。
  5. 基準A~Dは12カ月以上持続している。その期間中、基準A~Dのすべての症状が存在しない期間が連続3カ月以上続くことはない。
  6. 基準AとDは、少なくとも3つの場面(すなわち、家庭、学校、友人関係)のうち2つ以上で存在し、少なくとも1つの場面で顕著である。
  7. この診断は、6歳以下または18歳以上で、初めて診断すべきではない。
  8. 病歴または観察によれば、基準A~Eの出現は10歳以前である。
  9. 躁病または軽躁病エピソードの基準を持続期間を除いて完全に満たす。はっきりとした期間が1日以上続いたことがない。
     注:非常に好ましい出来事またはその期待に際して生じるような、発達面からみて相応しい気分の高揚は、躁病または軽躁病の症状とみなすべきではない。
  10. これらの行動は、うつ病のエピソード中にのみ起こるものではなく、また、他の精神疾患[例:自閉スペクトラム症、心的外傷後ストレス障害、分離不安症、持続性抑うつ障害(気分変調症)]ではうまく説明されない。
     注:この診断は反抗挑発症、間欠爆発症、双極性障害とは併存しないが、うつ病、注意欠如・多動症、素行症、物質使用障害を含む他のものとは併存可能である。症状が重篤気分調節症と反抗挑発症の両方の診断基準を満たす場合は、重篤気分調節症の診断のみを下すべきである。躁病または軽躁病エピソードの既往がある場合は、重篤気分調節症と診断されるべきではない。
  11. 症状は、物質の生理学的作用や、他の医学的疾患または精神科的疾患によるものではない。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)