こころのはなし

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他の医学的疾患による抑うつ障害

他の医学的疾患による抑うつ障害 Depressive Disorder Due to Another Medical Condition

疾患の具体例

54歳、男性。半年前に脳卒中で倒れ、入院の翌日から気分が落ちこんでいます。幸い、後遺症は少なく済みましたが、生きていることがむなしく、何もかもどうでもよく感じるようになりました。過去に精神疾患にかかったことはなく、これまで仕事も家族関係も充実していました。今回の脳卒中以外に大きな病気をしたことはありません。

特 徴

「他の医学的疾患による抑うつ障害」は、何らかの医学的疾患によって二次的に抑うつ障害が引き起こされる障害です。抑うつ症状は仕事や学業、日常生活などに著しい影響を与えるほど重く、持続します。 この障害を引き起こす可能性のある医学的疾患はさまざまです。例えば、脳卒中、ハンチントン病、パーキンソン病、頭部外傷などは明らかにうつ病と関係しており、神経解剖学的にも多少の関連があります。神経内分泌疾患では、クッシング病と甲状腺機能低下症が、抑うつと密に関係しています。 本当に「他の医学的疾患による抑うつ障害」なのかどうかを判断するために、医師は多数の要因を注意深く評価します。第一に考慮すべき点は、抑うつ症状と医学的疾患の発症、悪化、寛解のタイミングに関連性があるかどうかです。次に、通常の抑うつ症状(他の医学的疾患に関連しない)にあまり見られない特徴があること。例えば、発症年齢や経過が典型的ではなく、家族歴もない場合などが挙げられます。それらを考慮しながら既往歴、身体の診察や検査結果なども含めて総合的に検討し、抑うつ症状が他の医学的疾患と直接的な関係がある場合に、「他の医学的疾患による抑うつ障害」と診断されます。

経 過

脳卒中によって引き起こされる抑うつ障害は、非常に発症が急激なようです。最大の症例集積研究によると、脳血管発作から1日~数日以内に抑うつ症状が生じています。しかし、いくつかの症例では、脳血管発作の数週間~数ヵ月後に発症しています。抑うつエピソードの持続期間は平均9~11カ月と報告されています。 ハンチントン病も早期のうちに抑うつ状態が生じます。抑うつ障害が最初の神経精神症状として現れ、続いて運動障害や認知障害が生じると考えられています。ハンチントン病による認知症が進むにつれて、抑うつが少なくなるという報告もあります。

診断基準:DSM-5

  1. 顕著で持続的な期間において、抑うつ気分、または、すべてまたはほとんどすべての活動に対する興味や喜びの著明な減退が臨床像において優勢である。
  2. 既往歴、身体診察所見、または検査所見から、その障害が他の医学的疾患の直接的な病態生理学的結果であるという証拠がある。
  3. その障害は他の精神疾患(例:重篤な医学的疾患がストレス因である「適応障害、抑うつ気分を伴う」)ではうまく説明されない。
  4. その障害はせん妄の経過中にのみ起こるものではない。
  5. その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を起こしている。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)