こころのはなし

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物質・医薬品誘発性不安症/物質・医薬品誘発性不安障害

物質・医薬品誘発性不安症/物質・医薬品誘発性不安障害 Substance/Medication-Induced Anxiety Disorder

疾患の具体例

20歳、男性。夜を徹して試験勉強をするために、カフェインの多いドリンクを飲んでいました。眠気を感じないように一晩に数本も飲むことがあります。そうした夜が続いたある時、激しいパニック発作を起こしました。これまでパニック症を患ったことはありません。

特 徴

物質・医薬品誘発性不安症は、著しいパニックや不安の症状が物質(乱用薬物、医薬品、毒物)の影響によって生じる障害です。症状は、物質中毒や物質離脱の最中、またはすぐあとに生じるか、医薬品を使用したあとに現れます。他の医学的疾患の治療で薬を使用している間(または離脱している間)にも発症する可能性があります。 この障害を引き起こしうる物質・医薬品として、以下が挙げられます。

物質中毒に関連して起こりうるもの
アルコール、カフェイン、大麻、フェンシクリジン、他の幻覚薬、吸入剤、精神刺激薬(コカイン含む)

物質の離脱に関連して起こりうるもの
アルコール、オピオイド、鎮静薬、睡眠薬、抗不安薬、精神刺激薬(コカイン含む)

不安症を誘発しうる薬剤
麻酔薬と鎮痛薬、交感神経刺激薬または他の気管支拡張薬、抗コリン薬、インスリン、甲状腺製剤、経口避妊薬、抗ヒスタミン薬、抗パーキンソン病薬、副腎皮質ステロイド、降圧薬と心血管系治療薬、抗てんかん薬、炭酸リチウム、抗精神病薬、抗うつ薬。 重金属と毒物(例:有機リン殺虫剤、神経ガス、一酸化炭素、二酸化炭素、ガソリンや塗料のような揮発性物質)もパニックや不安症状を起こします。

なお、本当に物質・医薬品誘発性不安症なのか、通常の不安症(物質・医薬品に関係のない原発性不安症)なのかどうかは、医師が注意深く判断します。その際にポイントとなるのは、原発性不安症は物質・医薬品を使用する前に発症することがある点です。また、原発性不安症にしては珍しい発症年齢(例:パニック発作の発症年齢が45歳以降)や、症状の特徴(例:めまい、身体の平衡の喪失、意識の喪失、排尿の制御の消失、頭痛、不明瞭な会話など典型的ではないパニック発作の症状)は、物質・医薬品誘発性であることを示しているかもしれません。 なお、パニック発作や不安症状が、物質中毒の終了または急性の離脱以降、かなりの期間(約1カ月以上)持続していたり、これまでに不安症を患っていたりする場合は、原発性不安症であると考えられます。

有病率

物質・医薬品誘発性不安症の有病率は明らかになっていません。しかし、一般人口のデータによると頻度はまれで、約0.002%の12カ月有病率と推定されており、臨床場面での有病率はもっと高くなると考えられています。

経 過

医学的疾患を治療するための薬が原因で物質・医薬品誘発性不安症が生じた場合は、その治療を中断すると数日から数週~数ヵ月の間に症状が軽快、または寛解することが多いようです。ただし、物質や医薬品の半減期や離脱の存在によって期間は変動します。

診断基準:DSM-5

  1. パニック発作または不安が臨床像として優勢である。
  2. 以下の(1)と(2)の証拠両方が、既往歴、身体診察所見、または臨床検査所見から得られている。
  1. 基準Aの症状が物質中毒または離脱の期間中またはその直後、または医薬品に曝露された後に発現した。
  2. 関連する物質・医薬品は、基準Aの症状を引き起こしうる。
  1. その障害は、物質・医薬品誘発性ではない不安症ではうまく説明されない。独立した1つの不安症としての証拠は、以下を含めてもよい。 症状が物質・医薬品使用の開始に先行する;症状が急性の離脱または、重篤な中毒が終わった後、かなりの期間(例:約1カ月)持続する;または、物質・医薬品誘発性ではない他の不安症の存在を示唆する他の証拠がある(例:非物質・医薬品関連エピソードが反復する病歴)。
  2. その障害は、せん妄の経過中にのみ起こるものではない。
  3. その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

注:臨床像において基準Aが優勢であり、かつ、それらが臨床的関与に値するほど十分に重度であるときにのみ、物質中毒または物質離脱に代わって、この診断が下されるべきである。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)