トップページ 診療案内 各種プログラム こころのはなし 家族教室 スタッフ募集 サイトマップ English
こころのはなし

昨今、精神疾患の治療に漢方薬を用いることが注目されています。というのも、精神疾患は慢性的な経過をたどりやすく、長期間にわたって向精神薬を使用するケースが多いのが現状です。向精神薬による治療で十分な効果を得られない人、あるいは副作用に悩まされている人が、別の治療法として漢方薬に期待を寄せているのです。

漢方薬は、時として西洋薬(西洋医学に基づく薬。向精神薬もその一つ)の力が及ばない病態に効果を発揮します。副作用が比較的少なく(ゼロではない)、体力の弱った高齢者も使用しやすい点も、漢方薬が持っている魅力です。

 

ただし、漢方薬だけで精神疾患の治療ができるわけではありません。多くの場合、精神科で使用する漢方薬は「補助的」な位置づけです。急性で重症な精神疾患の場合は、向精神薬による治療が基本で、特に自殺や自傷他傷、遷延化(症状が長引く)、再発の可能性がある人は、漢方薬だけの治療はしないほうがよいと考えられています。

以上の用件に該当せず、漢方薬を中心とした治療をするとしても、心理社会的療法(精神療法など)は欠かさずに行う必要があります。

 

西洋医学は、基本的に患者さんの症状によって診断し、薬の処方が決められます。それに対して漢方医学は、症状だけでなく患者さんの体格や体質、心の状態なども考慮した「証」(しょう)という独特の考え方によって診断し、処方が決められます。

証を判断するにはいくつかの基準がありますが、もっとも基本的な基準は「虚実」(きょじつ)です。大まかにいえば、患者さんの体力の強弱による違いで、体力のある人は「実証」、体力が比較的弱い人は「虚証」といいます。

実証の人は、体が筋肉質あるいは固太りで、普段はあまり疲れず、積極性のあるタイプです。虚証の人はその反対で、痩せ形あるいは水太りの体格で、疲れやすくて消極的、肌は乾燥しがちな特徴があります。患者さんが実証か虚証かによって、使用する漢方薬は異なります。なお、誰もが実証または虚証に該当するとは限らず、「中間証」の人もいます。

 

以下は精神科における漢方療法の一例です。括弧内の(虚)(実)(中間)は、その漢方薬に合った実虚を表しています。

 

統合失調症

抗精神病薬を使わずに漢方薬だけで治療することは、ほぼ不可能です。しかし、一部の生薬には中枢抑制作用があり、急性期の興奮や幻覚妄想に対して多少の効果を持つ可能性があるので、補助的に使用する意義はあるかもしれません。

例えば、残遺期(安定期)の無気力状態には、抗精神病薬に「補中益気湯」(虚)や「十全大補湯」(虚)を併用することが有用だと考えられています。また、興奮の強い人には「大柴胡湯」(実)、「黄連解毒湯」(実〜中間)、「三黄瀉心湯」(実)などを。イライラの強い人には「柴胡加竜骨牡蠣湯」(実)、「甘麦大棗湯」(虚)、「抑肝散」(中間〜虚)、「抑肝散加陳皮半夏」(虚)などを併用することもできます。

 

気分障害

気分障害にはうつ病性障害と双極性障害が含まれます。このうち、双極性障害と中等度以上のうつ病性障害は向精神薬による治療が中心で、漢方薬は統合失調症と同様に補助的な役割にとどまります。しかし、軽症のうつ症状や気分変調症に対しては、漢方薬だけ、もしくは少量の抗うつ薬と漢方薬の併用で治療できる可能性があります。

以下は、オープンスタディ(非盲検討験;被験者が何の薬を飲んだか医師・被験者ともに知っている試験)によって抗うつ効果が確認されている漢方薬です。

「柴胡加竜骨牡蠣湯」「柴胡桂枝乾姜湯」「半夏厚朴湯」「抑肝散加陳皮半夏」「加味帰脾湯」「柴朴湯」

胸脇苦満(胸の苦しさ、圧痛など)のある人には、「柴胡加竜骨牡蠣湯」(実)、「柴胡桂枝湯」(中間〜虚)、「柴胡桂枝乾姜湯」(虚)などを用います。焦燥感が著しく、眼瞼の痙攣や手足の震え、チック症状などが見られる人には「抑肝散加陳皮半夏」(虚)、皮膚の乾燥や貧血傾向が著しい人には「加味帰脾湯」(虚)を用います。

 

神経症性障害

漢方薬のみで治療できることが少なくありません。比較的体力があり、不安や焦燥感が強ければ「柴胡加竜骨牡蠣湯」。より体力が低下している人は「四逆散」「柴胡桂枝湯」「柴胡桂枝乾姜湯」を用います。焦燥感が著明で、眼瞼の痙攣や手足の震え、チック症状などがある人は「抑肝散」「抑肝散加陳皮半夏」です。

抑うつ気分や不安、のどの詰まり感の伴う人は「半夏厚朴湯」「柴朴湯」を用います。不安、抑うつに加え、消化機能の低下を伴う人は「四君子湯」「六君子湯」「補中益気湯」を用います。

 

なお、漢方薬はもともと自然由来の生薬を煎じて飲むものですが、有効成分を抽出した「エキス剤」(主に顆粒タイプ)が公的医療保険の適用になっています。自費で漢方薬を購入すると高額になりますが、医師が医学的な必要性を認めて処方した漢方薬は保険が効き、月数千円程度で使用できます。

また、精神科医の全員が漢方を使用するわけではありません。精神疾患の治療で漢方を使って欲しい場合は、あらかじめ問い合わせておいたほうが無難です。

 

※参考文献

『実践 漢方医学 改定第2版』著者:山田和男、神原重信(星和書店)

こころのはなし こころの病気の知識 こころの病気のはなしこころの病気のはなし-2こころの病気のはなし-3こころの病まめ知識福祉用語の基礎知識 お役立ち情報自立支援医療制度デイケア社会資源情報社会資源情報こころの健康アラカルトクリニック広場デイケア通信患者様の活動リンク集 トップページへ