こころの病気(専門編) |ハートクリニック大船

HIV感染による認知症/軽度認知障害

HIV感染による認知症またはHIV感染による軽度認知障害
(Major or Mild Neurocognitive Disorder Due to HIV Infection)

ヒト免疫不全ウィルス(HIV)疾患[病]型認知症
(Dementia in human immunodeficiency virus (HIV) disease)

疾患の具体例

50歳女性。輸血が原因でHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染し、抗HIV薬による治療を受けています。そのためAIDS(後天性免疫不全症候群:エイズ)は発症していませんが、このところ物忘れが多くなって、薬を飲み忘れてしまうことがたびたびあります。さらに、集中力がなくなり、怒りっぽくなりました。また、ほんのちょっとした段差につまずいて、転んでしまうこともあります。

それで病院に行ったところ、脳脊髄液の検査と、MRI(核磁気共鳴画像法)を受けることになりました。その結果、脳脊髄液中のHIVウイルス量が多く、脳も若干縮小していることがわかり、HIV感染による認知症と診断されました。

特徴

有病率は、HIV疾患がどの程度進行しているかによって異なります。重度の免疫機能の低下が既往症としてあったり、脳脊髄液中に大量のウイルスが侵入していたり、貧血や低アルブミン血症(血中タンパクの低下)があったりすると、有病率が高くなります。

全体としては、HIV感染者の3分の1から2分の1以上の人に、認知機能の軽い障害があると推定されます。ただし、これらの人の中には、軽度認知障害の診断基準をすべて満たしていない人も含まれている可能性があります。検査で障害が認められるものの日常生活に支障がない人も多く、物忘れがあるなど軽度認知障害の診断基準を満たす人は、HIV感染者の25%程度だとも推定されています。また、認知症の基準を満たす人は5%未満です。

原因

HIV-1型のウイルスに感染し、感染が長期にわたることによって起こります。

HIV感染は、感染者の体液からウイルスが体内に入ることによって起こります。例えば、注射器の使い回しや感染予防をしない性交渉、あるいはウイルスで汚染された血液の輸血や、針刺し事故(医療従事者が、誤って注射針やメスで自分を刺してしまうこと)などが原因になります。

HIV疾患の治療法が進化したことで、「HIV脳症」と呼ばれる重篤な神経認知障害は激減しましたが、治療しても患者の体内からHIVウイルスを完全に排除することはできません。そのため、残存するウイルスに脳がずっと感染し続け、認知障害が起こるのではないかと考えられています。

また、治療薬が効かない(薬剤耐性のある)ウイルスが、感染者の脳脊髄液から見つかったという報告もあります。さらに、抗HIV薬そのものの毒性によって、認知障害が起こる可能性も指摘されています。

症状、経過

HIVは脳の多様な領域を侵すため、症状にはかなりの多様性があります。

初期には、物忘れがひどくなる、受け答えが緩慢になる、集中力が低下する、課題が解決できない、本が読めない、といったことが起こります。記憶力も低下しますが、すでに覚えていることを思い出すことは、ほとんど問題なくできます。また、転びやすくなるなど運動障害も起こります。

進行すると、怒りっぽくなる、攻撃的になる、無感情になる、自発性が低下するなど性格の変化が起こってきます。さらに運動障害も進行し、動きが緩慢になったり、脚が脱力したり、歩行が不安定になったり、平衡感覚が低下したり、筋肉の緊張や震えが起こったりすることもあります。

さらに進行すると、抑制が失われて突飛な行動をとったり、眼球運動が障害されたりもします。 子どもの場合は、発達の遅れや筋肉の緊張、小頭症、神経発達障害などがみられます。

治療

HIV感染の治療と同じで、何種類かの抗HIV薬を使用することで、進行を遅らせます。

予後

抗HIV薬による治療を受けている場合は、神経認知機能障害が急激に進むことはあまりありません。治療を受けていないで発症した場合は、治療を受けることで認知障害が安定したり、改善したりすることがあります。

治療を受けなかったりして重症化した場合は、数週間あるいは数か月でHIV認知症が進行します。最終的には周囲に対する反応がなくなり、感染症にかかるなどして、6ヵ月程度で死に至ります。

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