こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

精神科の薬について

こころの病気に使用されるお薬に関する情報、知識をご紹介します。

NEW!

睡眠薬の副作用

ベンゾジアゼピン受容体作動薬
従来、よく使用されていた「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」は、脳内のベンゾジアゼピン受容体に作用し、抑制性の神経伝達物質「GABA」 の作用を増強して眠気を促します。通常1時間以内に効果が現われますが、副作用も生じやすいため注意が必要です。
例えば、「トリアゾラム」は、ベンゾジアゼピン受容体への作用が強くなりすぎて、翌日まで眠気が持ち越したり、日中の鎮静、健忘、運動失調を引き起こしたりすることがあります。人によっては、もうろうとした状態になったり、睡眠随伴症(いわゆる夢遊病のような症状)が現われたりすることもあります。また、まれに幻覚や躁症状、低血圧などが生じることも報告されていますし、使用量が多いと行動障害や健忘はいっそう強くなる可能性があります。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬を長期にわたって使用していると、依存や耐性の問題もあるため、短期間の使用が推奨されています。薬の使用を中止してから1~2日くらいは夜に反跳性不眠(服薬前より不眠がひどくなる)が生じる人もいます。こうした副作用の問題から、近年はあまり使用されなくなってきました。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬の中でも、化学構造の違いから「非ベンゾジアゼピン系」に分類される薬があります。通常のベンゾジアゼピン系の薬よりは、ふらつきなどの副作用が少ないものの、やはり慎重に使用しなくてはなりません。例えば「ゾルピデム酒石酸塩」は、依存性や離脱症状が生じることがあります。特に、使用量が多い場合はそれらのリスクが高まる可能性があるため、注意が必要です。また、翌日に持ち越した場合は日中の鎮静、健忘、運動失調などの副作用が生じることもあります。

メラトニン受容体作動薬
「ラメルテオン」は、神経伝達物質メラトニンにはたらきかけ、不眠を改善したり、睡眠と覚醒のリズムを整えたりする薬です。副作用は少なく、翌日への持ち越しや日中の鎮静、疲れやすさなどを引き起こす可能性はあるものの、まれにしか見られません。長期にわたって使用しても、依存や耐性、乱用の可能性は報告されていません。

オレキシン受容体拮抗薬
オレキシン受容体拮抗薬は、脳が覚醒した状態を維持する神経伝達物質「オレキシン受容体」のはたらきを抑制することで、眠りやすくします。副作用が少ない薬で、近年よく使用されるようになりました。ただ、「ベルソムラ」も「レンボレキサント」も傾眠や疲労、頭痛、めまい、動悸など比較的軽度な副作用は生じることがあります。

※参考文献
『治療薬マニュアル2020』(医学書院)
『ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版 』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)
『精神科治療薬の考え方と使い方』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)
「ベルソムラ」インタビューフォーム
「デエビゴ」インタビューフォーム

睡眠薬の種類
  • ベンゾジアゼピン受容体作動薬
  • 超短期作用型
    ゾルピデム酒石酸塩 ※非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
    ゾピクロン ※非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
    エスゾピクロン ※非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
    トリアゾラム
    ミダゾラム
  • 短期作用型
    エチゾラム
    ブロチゾラム
    リルマザホン塩酸塩水和物
    ロルメタゼパム
  • 中期作用型
    フルニトラゼパム
    エスタゾラム
    ニトラゼパム
    クアゼパム
  • 長期作用型
    フルラゼパム塩酸塩
    ハロキサゾラム
  • メラトニン受容体作動薬
  • ラメルテオン
  • オレキシン受容体拮抗薬
  • スボレキサント
  • レンボレキサント

現在、使用されている睡眠薬は、大きく分けて「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」「メラトニン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬」という3タイプがあります。
このうちベンゾジアゼピン受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)は、脳内のベンゾジアゼピン受容体に作用し、抑制性の神経伝達物質「GABA」のはたらきを増強する薬です。眠くなる効果が早く現れるため、以前は睡眠薬の主流として使用されていました。しかし、依存性や翌朝への持ち越し、過鎮静、健忘、連用中止後の反跳性不眠(服薬前より不眠がひどくなる)、ふらつき、転倒などの副作用が多いという難点があります。特に、多剤併用や高用量使用、長期使用を続けていると副作用が生じやすいため、近年はあまり使用されなくなってきました。
何らかの理由でベンゾジアゼピン受容体作動薬を使用する場合は、単剤を基本として、なるべく短期間にとどめることが推奨されています。また、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の中でも、「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」が選ばれるようにもなってきました。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、通常のベンゾジアゼピン系睡眠薬とは化学構造が異なるため「非」のついた名称で区別されています。しかし、ベンゾジアゼピン受容体に作用して眠気を促す仕組みは共通しており、その効果の素早さも遜色がないとされています。依存性や翌朝への持ち越し、ふらつきなどの副作用は軽減されているため、通常のベンゾジアゼピン系睡眠薬より使用しやすいと言えるかもしれません。ただ、作用時間が「超短期作用型」のものしかなく、健忘の副作用が現れることもあるため、安易な使用は控えなくてはなりません。

近年、睡眠障害の治療は、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬を使用し、なおかつ睡眠衛生の改善や認知行動療法を取り入れることが主流になってきています。
メラトニン受容体作動薬は、神経伝達物質「メラトニン」に作用する薬です。メラトニンは、いわゆる体内時計に深く関係しており、朝日を浴びると覚醒し、夜、暗くなると自然に眠くなるというリズム(概日リズム:サーカディアンリズム)を調整しています。メラトニン受容体作動薬は、メラトニンにはたらきかけて睡眠覚醒リズムを整える作用があります。ベンゾジアゼピン受容体作動薬ほど強い効果はありませんが、副作用が極めて少なく、安全性の高い薬です。特に、睡眠の時間帯が昼夜のサイクルとずれる「概日リズム睡眠障害(睡眠覚醒リズム障害)」の場合、良い選択肢となることでしょう。

もう一つのオレキシン受容体拮抗薬は、比較的新しい睡眠薬です。オレキシンとは、脳が覚醒した状態を維持する神経伝達物質です。オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシンのはたらきを抑制することで過剰な覚醒状態(眠りたくても眠れない)を和らげ、睡眠状態へと移行させます。副作用は極めて少なく、安全性の面から睡眠薬の第一選択薬になっています。

なお、睡眠衛生の改善方法としては、できるだけ毎日同じ時間に起床して朝日を浴びる、日中に適度な運動をする、昼寝は控えることなどが推奨されています。あわせて、寝る前にはアルコールやカフェイン、ニコチンなどの刺激物、激しい運動、光刺激(パソコンやスマートフォン)を避けることも大切です。
不眠に対する認知行動療法は、刺激制御療法(眠たくなったときだけ寝室へ行く)、進行性筋弛緩(全身の筋肉をいったん緊張させてから緩める)、睡眠制限(睡眠時間を短めに制限し、質が良くなったら徐々に増やしていく)などいくつかの方法があります。医師と相談のうえ、自分の症状に合った方法を取り入れるようにしましょう。

※参考文献
『治療薬マニュアル2020』(医学書院)
『ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版 』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

抗うつ薬の種類
  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
    フルボキサミンマレイン酸塩
    パロキセチン塩酸塩水和物
    塩酸セルトラリン
    エスシタロプラムシュウ酸塩
  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
    ミルナシプラン塩酸塩
    デュロキセチン塩酸塩
    ベンラファキシン塩酸塩
  • NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性薬)
    ミルタザピン
  • セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節剤
    ボルチオキセチン
  • 三環系抗うつ薬
    ノルトリプチリン塩酸塩
    アモキサピン
    イミプラミン塩酸塩
    トリミプラミンマレイン酸塩
    クロミプラミン塩酸塩
    ロフェプラミン塩酸塩
    ドスレピン塩酸塩
  • 四環系抗うつ薬
    マプロチリン塩酸塩
    ミアンセリン塩酸塩
    セチプチリンマレイン酸塩

うつ病の標準的治療で使用する「抗うつ薬」は、薬理的作用や化学構造式によって分類されています。日本では主に「SSRI」「SNRI」「NaSSA」「三環系」「四環系」が使用されてきました。加えて、2019年11月から日本で保険適用した新しい抗うつ薬として、「「セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節剤」もあります。 うつ病の原因は、今でもはっきりと突き止められていませんが、脳内の神経伝達物質の不足が影響していると考えられています。多くの抗うつ薬は、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといったモノアミン神経伝達物質の不足が原因と考える「モノアミン仮説」をもとに開発されてきました。

最初に使用を検討されることが多い抗うつ薬はSSRIもしくはNaSSA、SNRIです。ここでは、それら3種類の薬と、新たに使われ始めたセロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節剤について解説します。三環系・四環系は古いタイプで、副作用が強く現れる傾向があります。しかし、新しい世代の抗うつ薬が効かないケースなどには、今でも三環系・四環系抗うつ薬が使用されています。

SSRI

セロトニンの不足を補う薬です。セロトニンは、神経細胞の「前シナプス」から放出され、「後シナプス」の受容体に取り込まれます。前シナプスと後シナプスの間(シナプス間隙)のセロトニン濃度が過不足なく保たれていればいいのですが、うつ病の場合は、一部のセロトニンが再び前シナプスに取り込まれ(再取り込み)、セロトニンが不足すると考えられています。SSRIは、その再取り込みを阻害することで、うつ病を治そうとする薬です。SSRIにはいくつかの薬剤があり、それぞれに特徴があります。

  • セルトラリン
    セロトニン再取り込み阻害作用に加え、ドーパミン再取り込み阻害作用、σ(シグマ)1受容体への結合特性を持つ薬です。ドーパミン再取り込み阻害作用は弱く、十分な作用と言えるかどうか議論がありますが、気力、意欲、集中力などの改善には効果を発揮するかもしれません。σ1受容体への結合特性による作用は詳しく解明されていませんが、抗不安作用や、妄想性のうつ病に対して作用する可能性があります。
  • パロキセチン
    セロトニン再取り込み阻害作用に加え、抗コリン作用を持つ薬です。抗コリン作用は、気分を鎮静させる作用に関係しています。また、弱い程度のノルアドレナリン再取り込み阻害作用も持っており、それが抗うつ作用を強める可能性があります。
  • フルボキサミン
    セロトニン再取り込み阻害作用に加え、σ(シグマ)1受容体への結合特性を持つ薬です。σ1受容体への作用はセルトラリンより強力です。精神病性や妄想性うつ病にも作用を示します。
  • エスシタロプラム
    日本未承認のシタロプラムというSSRIを改良した薬。セロトニントランスポータ(セロトニンを再取り込みするたんぱく質)を選択して作用するため、ほかのモノアミンへの影響や、有害作用が少ない可能性があります。

SNRI

セロトニン再取り込み阻害作用と、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用の両方を持つ薬です。SSRIより多くの脳領域に作用することになるため、抗うつ効果も高いのではないかと議論されています。

  • デュロキセチン
    ノルアドレナリン再取り込み阻害作用よりも、少し強力なセロトニン再取り込み阻害作用がある薬です。抗うつ作用だけでなく痛みの緩和にも効果があり、日本では糖尿病性神経障害、線維筋痛症、慢性腰痛症に伴う疼痛にも使用されています。
  • ミルナシプラン
    セロトニン再取り込み阻害作用よりも、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用が強い薬です。痛みに対する効果が高い可能性があります。また、うつ病に伴う認知障害や、線維筋痛症にしばしば伴う認知障害に好ましい効果を与えるかもしれません。

NaSSA

  • ミルタザピン
    モノアミンの再取り込みを阻害せず、ノルアドレナリンやセロトニンの放出を促進し、抗うつ作用を発揮させる薬です。臨床効果はSNRIとほぼ同等で、鎮静・催眠作用が比較的強く現れます。

セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節剤

  • ボルチオキセチン
    SSRIのようなセロトニン再取り込み阻害作用に加え、セロトニン受容体を調節する作用も持つ薬です。セロトニンの濃度を上昇させるだけでなく、ノルアドレナリン、ドーパミン、アセチルコリン、ヒスタミンといった物質の遊離を調節することで、抗うつ作用を発揮します。うつ病で苦しむ患者さんの新たな選択肢として期待されています。

※参考文献 「ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版」(メディカルサイエンスインターナショナル)
「治療薬マニュアル 2020」(医学書院)
武田薬品工業 ホームページ

抗うつ薬の副作用(旧世代薬)

うつ症状を改善する「抗うつ薬」は、大きく分けて“旧世代薬”(従来型)と“新世代薬”の2タイプがあります。両者の大きな違いは、副作用の現れ方です。旧世代薬は、新世代薬よりも副作用が強く現れる傾向があります。

旧世代薬は、分子構造の違いによって「三環系」「四環系」に分類されます。このうち、三環系抗うつ薬は「抗コリン作用」による副作用が強いとされています。神経伝達物質「アセチルコリン」のはたらきを遮断するために起こる症状で、口渇、便秘(イレウス)、かすみ目などが現れます。 また、抗ヒスタミン作用もあるため、鎮静や眠気、体重増加などの副作用もよく現れます。もともと体重の多い患者さんが使用する場合は注意が必要です。さらに、神経伝達物質「α1アドレナリン」のはたらきを遮断することから、ふらつき、鎮静、低血圧、起立性低血圧、頻脈、転倒などが現れることもあります。その他、過量服薬をすることで、心律動異常(不整脈など)やてんかん性発作が起こる場合もあります。

四環系抗うつ薬は、三環系抗うつ薬よりも比較的、副作用が穏やかな傾向があります。それでも、鎮静や体重増加などはよく見られます。

これらの副作用は、多くの場合、服薬してすぐに現れます。往々にして、本来の目的である抗うつ作用より先に副作用が起こるため、服薬の中断に至ることもあります。高齢者は、若年者よりも副作用がつらく感じられることが多いようです。 副作用はしばらくすると改善されていきますが、患者さんの状態によっては減量したり、新世代抗うつ薬に変更したりして対処します。そもそも、旧世代薬を第一選択薬として使うことは少なくなっています。ただ、新世代抗うつ薬ではあまり効果が得られない患者さんや、睡眠障害が強い患者さんに対しては、あえて旧世代抗うつ薬を使用することがあります。

※参考文献
『治療薬マニュアル2020』(医学書院)
『精神科治療薬の考え方と使い方』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

抗うつ薬の副作用(新世代薬)

うつ症状を改善する「抗うつ薬」は、大きく分けて“旧世代薬”(従来型)と“新世代薬”の2タイプがあります。新世代薬は、旧世代薬に比べると副作用が少ないことから、第一選択薬としてよく使われています。しかし、新世代薬でも副作用がないわけではありません。
新生代薬は、薬理作用の違いから4種類に分けられており、それぞれに副作用があります。単剤で使用している分にはあまり気にならない副作用も、複数を併用することで問題が生じやすくなる場合があることに注意が必要です。
いずれの副作用も使用開始から比較的すぐに生じるため、主作用(抗うつ作用)が現れる前に服薬を中断したくなるかもしれません。通常、副作用は時間の経過とともに消失していきますが、副作用を抑える対症療法として、制吐剤や睡眠薬などを使用することもあります。また、別の抗うつ薬に切り替えると副作用に耐えられ、治療が継続できるようになる人もいます。

「SSRI」(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

神経伝達物質セロトニンのはたらきを増強することで、抗うつ作用を発揮する薬です。服薬してしばらくの間は、抗うつ作用をもたらす部位とは違った部位(例:腸管、睡眠中枢など)でもセロトニンのはたらきが増強されることから、副作用が生じると考えられています。主な副作用として、消化器症状(食欲不振、悪心、下痢、便秘、口渇)、精神神経系症状(不眠、鎮静、激越、振戦、頭痛、ふらつき)、性機能障害(射精遅延、勃起不全、性欲減退、無オーガズム)などが挙げられます。 また、セロトニンが増強されることで、ドーパミンのはたらきが減弱し、感情の平板化やアパシー(無気力状態)になることもあります。まれに、「セロトニン症候群」といって、精神症状(不安、混乱、いらいら、興奮など)、錐体外路症状(手足が勝手に動く、震える、体が固くなるなど)、自律神経症状(発汗、発熱、下痢、頻脈など)が生じることもあります。

「SNRI」(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

神経伝達物質のセロトニンと、ノルアドレナリンのはたらきを増強することで、抗うつ作用を発揮する薬です。SSRIと同様に、抗うつ作用をもたらす部位とは違った部位でもセロトニンやノルアドレナリンのはたらきが増強されるため、消化器症状、精神神経系症状、性機能障害などの副作用が生じます。また、SNRIに特徴的な副作用としては、ノルアドレナリンが増強されることによる尿閉、便秘、血圧上昇などが挙げられます。尿閉は特に高齢男性に起こりやすい副作用です。

「NaSSA」(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)

神経伝達物質ノルアドレナリンやセロトニンのはたらきを増強することで、抗うつ作用を発揮する薬です。抗ヒスタミン作用もあるため、副作用として眠気や鎮静、体重増加がよく見られます。体重増加は男性より女性に起こりやすい傾向があります。ほかに、風邪のような症状や、排尿機能の変化、低血圧といった副作用にも注意が必要です。性機能障害はまれにしか起こりません。

「セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬」

2019年11月に保険適用された新しい抗うつ薬です。いくつかのセロトニン神経のはたらきを調節することで、セロトニンだけでなく、ノルアドレナリン、ドーパミン、ヒスタミンなど複数の神経伝達物質のはたらきを増強させ、抗うつ作用を発揮します。 副作用として悪心、嘔吐、便秘などが挙げられます。抗うつ作用をもたらす部位とは違った部位でもセロトニンやノルアドレナリンのはたらきが増強することなどが原因です。また、性機能障害が生じることもありますが、SSRIよりは少ないかもしれません。

※参考文献
『治療薬マニュアル2020』(医学書院)
『精神科治療薬の考え方と使い方』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(https://www.pmda.go.jp/files/000144659.pdf)

抗精神病薬の種類(1)
  • 定型抗精神病薬
  • 高力価群
  • A.ブチロフェノリン誘導体
     ハロペリドール
     スピペロン
     チミペロン
  • B.フェノチアジン誘導体
     フルフェナジンマレイン酸塩
     ペルフェナジン
     プロクロルペラジン
  • C.ベンザミド誘導体
     ネモナプリド
  • 低力価群
  • A.フェノチアジン誘導体
     クロルプロマジン
     レボメプロマジン
  • B.ブチロフェノン誘導体
     ピパンペロン塩酸塩(フロロピパミド塩酸塩)
  • 中間・異型群
  • A.フェノチアジン誘導体
     プロペリシアジン
  • B.チエピン誘導体
     ゾテピン
  • C.イミノジベンジル誘導体
     クロカプラミン塩酸塩水和物
     モサプラミン塩酸塩
  • D.ブチロフェノン誘導体
     ブロムペリドール
     ピモジド
  • E.インドール系薬物
     オキシペルチン
  • F.ベンザミド誘導体
     スルピリド
     スルトプリド塩酸塩

抗精神病薬は、統合失調症などの治療に用いられる薬です。「定型抗精神病薬」と「非定型抗精神病薬」に大別されます。定型抗精神病薬は古くから存在するタイプで、「従来型」「古典的」「第一世代」などとも呼ばれます。それに対し、非定型抗精神病薬は新しいタイプで、定型抗精神病薬よりも副作用が少ない点が特長です。

今回は、従来から使用されてきた定型抗精神病薬について解説します。 定型抗精神病薬は、主に神経伝達物質ドーパミンのはたらきを抑える(ドーパミン受容体を遮断)ことで治療効果を発揮します。統合失調症の陽性症状(幻視や妄想など)は、脳の「中脳辺縁系」という部分のドーパミンが過活動になることで引き起こされると考えられています。ここに定型抗精神病薬がうまく作用すれば、陽性症状が軽減できます。しかし、中脳辺縁系のドーパミンは精神病の陽性症状だけでなく、喜びや快感、興味、行動を起こそうとする動機付けなどにも深く関わっています。そのため定型抗精神病薬は、快楽消失、アパシー(無気力状態)など統合失調症の陰性症状によく似た副作用が生じることがあります。

また、定型抗精神病薬は脳全体のドーパミンのはたらきを抑えるため、ほかにもさまざまな副作用が生じることがわかっています。例えば、脳の「黒質線条体」という部分のドーパミンのはたらきが抑えられると、「錐体外路症状」(EPS)という運動症状が引き起こされることがあります。長期にわたって黒質線条体のドーパミンのはたらきが抑えられると、「遅発性ジスキネジア」という多動性の運動症状が引き起こされることもあります。また、脳の「漏斗下垂体」という部分のドーパミンのはたらきが抑えられると、プロラクチンというホルモンが上昇し、乳汁漏出、月経不順や無月経などの副作用が生じることがあります。女性は不妊につながることもあります。

このように、定型抗精神病薬は統合失調症の陽性症状を抑えることはできても、副作用が強く現れることが大きな問題となっていました。最近では、定型抗精神病薬を使用していた患者さんが、副作用の少ない非定型抗精神病薬に切り替えたいということも多くなってきています。

しかし、現在も患者さんの状態などによっては定型抗精神病薬が使用されています。定型抗精神病薬にはいくつか種類がありますが、いずれも治療作用の仕組みは似ており、効き目の強さや副作用の引き起こしやすさなどが多少異なります。また、定型抗精神病薬の亜分類に「高力価」「低力価」などとありますが、効き目の強さを表しています。

高力価群はドーパミンのはたらきを抑える作用が強いため、急性の錐体外路症状が生じやすく、注意が必要です。服薬から1~3日目にジストニア発作(意図せず急に体が動く)が起こる可能性もあります。 低力価群はドーパミンを遮断する効果は低いものの、鎮静作用が強いという特徴があります。また、自律神経系や循環器系、代謝系(体重増加や脂質異常症など)の副作用が起こりやすいため、徐々に薬の量を増やしながら使う必要があります。服用を初めた初期の段階では眠くなったり、立ちくらみ、失神、昏倒になることもあるため、注意しなければなりません。 「中間・異型群」は、効き目が高力価群と低力価群の中間に位置する薬物、および特異な作用や効果を持つ薬物です。鎮静効果も急性錐体外路症状も比較的弱いため、回復期や慢性期の維持療法で使用されることがあります。あるいは、高力価群や低力価群のどちらもあまり効かない難治例や、高齢者にも使用されます。

※参考文献
「ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版」(メディカルサイエンスインターナショナル)
「治療薬マニュアル 2020」(医学書院)

抗精神病薬の種類(2)
  • 非定型抗精神薬群
  • セロトニン・ドパミン拮抗薬
    リスペリドン
    パリペリドン
    ペロスピロン塩酸塩水和物
    ブロナンセリン
  • クロザピンと類似化合物
    クロザピン
    オランザピン
    クエチアピンフマル酸塩
  • アリピプラゾールと類似化合物
    アリピプラゾール
    ブレクスピプラゾール
  • 持効型抗精神病薬
  • 4週間持効型
    ハロペリドールデカン酸エステル
    フルフェナジンデカン酸エステル
    パリペリドン アリピプラゾール水和物
  • 2週間持効型
    リスペリドン
  • 舌下型
    アセナピンマレイン酸塩

抗精神病薬は、統合失調症などの治療に用いられる薬です。「定型抗精神病薬」と「非定型抗精神病薬」に大別されます。定型抗精神病薬は古くから存在するタイプで、基本的に神経伝達物質ドパミンのはたらきを抑えることで効果を発します。統合失調症の陽性症状に効果がありますが、副作用が現れやすい難点があります。それに対し、非定型抗精神病薬は新しいタイプで、ドパミン以外の神経伝達物質にも作用します。定型抗精神病とほぼ同等の効き目がありながら、副作用が少ない点が特長です。現在の精神科医療では、非定型抗精神病薬が優先的に使用されています。 非定型抗精神病薬にはいくつか種類があり、ここでは代表的な薬について説明します。

セロトニン・ドパミン拮抗薬

神経伝達物質ドパミンとセロトニンの両方に作用して、統合失調症の症状を抑える薬です。中脳辺縁系にあるドパミン神経の経路を遮断することで陽性症状(幻覚や妄想など)を抑えます。一方で、セロトニン神経の経路も遮断するので、黒質線条体のドパミン神経経路は遮断され過ぎず、錐体外路症状(EPS:震えや不随意運動など)が起きにくい特長があります。 「リスペリドン」は、低用量であればEPSが少ない薬です。しかし、プロラクチンというホルモンの血中濃度が高くなり、乳汁分泌、無月経などの副作用が生じることがあります。2週間の長時間作用型の注射剤もあります。 「パリペリドン」は、リスペリドンの活性代謝物です。薬の成分が徐々に放出されて長時間にわたって続く除放製剤のため、リスペリドンより鎮静や起立性低血圧が少なく、EPSもほとんど生じません。4週間の長時間作用型の注射剤もあります。

クロザピンと類似化合物

「クロザピン」は、非定型抗精神病薬として初めて認められた薬です。ほとんどEPSを起こさず、遅発性ジスキネジアやプロラクチン濃度の上昇も起こしません。ドパミンとセロトニンのほか、多様な神経伝達物質の受容体にも作用します。精神病による攻撃性や暴力の治療には特に適しており、他の抗精神病薬で効果を得られない時にも有効性が高いと認められています。しかし、顆粒球減少症という時に致死的となる副作用のリスクが高い薬でもあります。また、高用量ではけいれんのリスクを高めたり、極めて鎮静作用が高かったりするなど、好ましくない面もあるため、第一選択薬としてはあまり使われません。 「オランザピン」はクロザピンと似た化学構造ですが、より高力価(効き目が強い)薬です。クロザピンほど鎮静作用は強くありませんが、ある程度の鎮静作用は示すことがあります。また、治療期間が長くなってもプロラクチン濃度をほとんど上昇させません。しかし、体重を増加させることがあります。また、心代謝系のリスクを上昇させます。

アリピプラゾールと類似化合物

「アリピプラゾール」は、ドパミンの受容体を部分的に刺激する薬です。ドパミン神経を遮断し過ぎることがないため、EPSやプロラクチン濃度の上昇があまり現れません。体重増加を起こしにくい点も特徴的です。通常は鎮静作用がありませんが、一部の患者に焦燥や悪心、嘔吐を生じさせることがあります。また、高用量では十分な抗精神用作用を発揮しない場合があります。 「ブレクスピプラゾール」はアリピプラゾールよりドパミンを部分的に抑える作用が強い薬です。セロトニンに強く作用する関係から、アリピプラゾールより焦燥などが少ないとされています。

※参考文献
「ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版」(メディカルサイエンスインターナショナル)
「治療薬マニュアル 2020」(医学書院) 「今日の治療薬 2020」(南江堂

気分安定薬の種類
  • 炭酸リチウム
  • バルプロ酸ナトリウム
  • カルバマゼピン
  • ラモトリギン
  • クエチアピンフマル酸塩

「気分安定薬」は、躁病相とうつ病相の両方を抑制する作用のある薬です。双極性障害は、躁病相とうつ病相を行ったり来たりする疾患ですが、うつ病相の時に抗うつ薬を単独で使用していると気持ちが高ぶりすぎて躁病相になるリスクがあります。そのため、気分安定薬が双極性障害の第1選択薬として用いられています。また、いったん落ち着いた躁病相やうつ病相の再発防止のために使ったり、うつ病の治療で抗うつ薬と併用したりすることもあります。
日本国内で気分安定薬として認められている薬はいくつかありますが、その中には気分安定作用のある抗てんかん薬や抗精神病薬も含まれています。ここでは代表的なものについて解説します。

炭酸リチウム

炭酸リチウムは、古くから双極性障害の第1選択薬として使用されてきました。効果が現れるまで1~3週間ほどかかります。多くの患者さんで、ある程度まで症状(躁病相またはうつ病相)が改善します。
ただし、量が多すぎるとリチウム中毒(消化器症状、中枢神経症状、運動機能症状など)が起きる場合があります。また、妊娠中に使用すると胎児の心奇形リスクが上がるため、注意が必要です。服用によって食欲が増し、体重が増加するケースもよくあります。

バルプロ酸ナトリウム

もともと抗てんかん薬として使われてきた薬ですが、気分安定薬として双極性障害の治療にも使用されます。急性躁病に対し、2~3日で効果が現れることがあります。気分安定作用が現れるまでには数週~数ヵ月かかります。
副作用としては、過度の鎮静が挙げられます。通常、徐々に落ち着きますが、過鎮静によって身体的な問題が生じる場合もあります。また、服用によって体重が増加するケースもよく見られます。妊娠中の使用で催奇形性(二分脊椎など)のリスクが上がります。母乳への移行もありますが、通常、授乳を控える必要はないと考えられています。しかし、母乳を継続する場合は、子どもに何らかの異常が現れないか注視しなくてはなりません。

カルバマゼピン

こちらも抗てんかん薬として使われてきた薬で、気分安定薬として双極性障害の躁病相の治療にも使用されます。炭酸リチウムが効かなかったり、合併症などの理由で使用できなかったりする人にも、カルバマゼピンは使われます。急性の躁病に対する効果は2~3週間で現れますが、ある程度、気分が安定するまで数週間から数ヵ月かかることもあります。
副作用としては、過量服薬による致死性が挙げられます。また、妊娠中の使用で催奇形性(二分脊椎など)のリスクがあります。母乳に移行することもわかっており、授乳中の患者さんはカルバマゼピンを使用しないか、子どもに人工栄養(ミルク)を与えることが推奨されています。

ラモトリギン

比較的新しい抗てんかん薬で、双極性障害の再発・再燃の抑制にも使用されます(ただし、双極性障害の急性期治療に対する有効性や安全性は確立していません)。双極性障害では、躁病相よりうつ病相に効果が高いと考えられています。その効果が現れるまで数週間必要なことがあります。気分安定効果は数週~数ヵ月で安定してきます。
副作用として体重増加や過鎮静はさほどありませんが、しばしば良性の発疹が見られます。また、まれにスティーブン・ジョンソン症候群など重篤な皮膚障害を起こすリスクがあることに注意が必要です。妊娠中の使用による影響はまだはっきりわかっていません。母乳に移行するため、授乳中の患者さんはラモトリギンの使用を中止するか、子どもに人工栄養(ミルク)を与えることが推奨されています。

クエチアピンフマル酸塩

第2世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)で、統合失調症の治療に使われてきた薬ですが、2017年に双極性障害のうつ症状への使用も認められました。脳内伝達物質ドーパミンやセロトニンの受容体を遮断し、気分症状を安定させます。1週間ほどで躁病相の改善が見られますが、感情が安定するには数週間かかることがあります。
この薬の単独使用であれば、過量服薬で死に至ることはまれです。しかし、過鎮静は頻繁に見られ、体重増加も多くの患者さんが経験します。

##参考文献 『治療薬マニュアル2020』(医学書院) 『精神科治療薬の考え方と使い方』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

気分安定薬の副作用
  • 炭酸リチウム
  • バルプロ酸ナトリウム
  • カルバマゼピン
  • ラモトリギン
  • クエチアピンフマル酸塩

「気分安定薬」は、双極性障害の治療で第1選択薬として使われている薬です。躁病相とうつ病相の両方を抑制する作用があり、抗うつ薬の作用を増強するためにも使われることがあります。日本国内で気分安定薬として認められている薬の中には、気分安定作用のある抗てんかん薬や抗精神病薬も含まれます。それぞれ効果が認められていますが、副作用もあります。ここでは代表的な薬の副作用について解説します。

炭酸リチウム

炭酸リチウムは、古くから双極性障害の第1選択薬として使用されてきました。注意すべき副作用の代表は「リチウム中毒」で、消化器症状、中枢神経症状、運動機能症状などが起きる場合があります。この薬は有効血中濃度が狭いため、リチウム血症濃度のモニタリング検査が必要です。また、腎障害(間質性腎炎)や腎性尿崩症(多尿、多飲)になることもあるため、定期的な腎機能検査を行う必要もあります。
服薬によって食欲が増し、体重増加がよく見られます。鎮静も多くの患者さんが経験する副作用ですが、次第に消失していくことが多いようです。また、妊娠中に使用すると胎児の心奇形リスクが上がるため、使用の中止または減量が推奨されています。
なお、炭酸リチウムと抗うつ薬のSSRIを併用すると、ふらつき、錯乱、下痢、激越、振戦などのリスクが上昇することがあるため、医師の指示に基づいて正しく使用するようにしましょう。

バルプロ酸ナトリウム

もともと抗てんかん薬として使われてきた薬ですが、気分安定薬として双極性障害の治療にも使用されています。副作用として、鎮静が高い頻度で見られますが、経過とともに消失していくことが多いようです。他に、振戦、ふらつき、運動失調、無力、頭痛、消化器症状などが起こることもあります。
一部の副作用は使用期間の長さに関係しており、時間の経過や、使用量の減量で解決しないかもしれません。例えば、体重増加、代謝性合併症などが挙げられます。女性は月経障害、多嚢胞性卵胞、アンドロゲン過剰症、肥満、インスリン抵抗性の副作用も起こりえます。また、胎児への影響(肝障害、膵障害、神経管欠損症など)も報告されています。

カルバマゼピン

こちらも抗てんかん薬として使われてきた薬で、気分安定薬としても使用されています。特に頻繁に現れる副作用は鎮静で、これに耐えられない患者さんもいるかもしれません。経過とともに解消していくことが多いものの、高用量の使用では消失しません。他に、ふらつき、錯乱、不安定な感じ、頭痛が生じる人もいます。
また、骨髄のはたらきに影響を与え、白血球の減少などが生じることもあります。通常は一過性のものですが、血球数のモニタリングを必要とします。 患者さんによっては皮膚障害(発疹)が起こります。まれですが、重篤な皮膚科学的反応(スティーブン・ジョンソン症候群)が生じることもあり、注意が必要です。

ラモトリギン

比較的新しい抗てんかん薬で、双極性障害の再発・再燃の抑制にも使用されています。他の気分安定薬によくある副作用が少なめで、鎮静や体重増加などもそれほど目立ちません。かすみ目、ふらつき、運動失調、頭痛などは起こることがあります。また、発疹が現れる場合があり、おそらくアレルギー反応だと考えられています。まれにスティーブン・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死剥離症といった重篤な皮膚障害が起こるため、良性の発疹との鑑別が重要です。あるいは薬物過感受性症候群による多臓器不全も報告されています。

クエチアピンフマル酸塩

統合失調症の治療に使われる抗精神病薬ですが、2017年に双極性障害のうつ症状への使用も認められました。頻繁に見られる副作用は鎮静で、これに耐えられない患者さんもいるかもしれません。ただ、経過とともに減弱することが多いようです。他に体重増加もよくある副作用です。患者さんによっては、糖尿病や脂質異常症のリスクを高める危険があるため、注意が必要です。口の渇き、便秘、消化不良になる人もいます。

##参考文献
『精神科治療薬の考え方と使い方』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)
『ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版』(メディカルサイエンスインターナショナル)

抗不安薬の種類(ベンゾジアゼピン受容体作動薬)
  • 短期作用型(6時間以内)
    高力価型
    エチゾラム

    低力価型
    クロチアゼパム
    フルタゾラム
  • 中期作用型(24時間以内)
    高力価型
    ロラゼパム
    アルプラゾラム
    フルジアゼパム

    中力価型
    ブロマゼパム
  • 長期作用型(24時間以上)
    中力価型
    ジアゼパム
    クロキサゾラム

    低力価型
    クロルジアゼポキシド
    メダゼパム
    クロラゼプ酸二カリウム
  • 超長期作用型(50時間以上)
    高力価型
    フルトプラゼパム
    ロフラゼプ酸エチル
    メキサゾラム

    低力価型
    オキサゾラム

「抗不安薬」は、「ベンゾジアゼピン系」(ベンゾジアゼピン受容体作動薬:BZ受容体作動薬)と「非ベンゾジアゼピン系」の2種類があり、ほとんどが前者に該当します。 BZ受容体作動薬は、不安焦燥感や精神運動興奮、心身症などの症状を軽減します。脳内にあるベンゾジアゼピン受容体は、神経伝達物質「GABA」の受容体と複合体になっていますが、そのGABAには脳の興奮を鎮め、リラックスさせる抑制作用があります。BZ受容体作動薬を使用すると複合体が刺激され、その結果、GABAの働きが増強されて神経活動が抑制されると考えられています。

非ベンゾジアゼピン系の薬物に比べ、BZ受容体作動薬は即効性があり、死に至るほど重篤な副作用は少ないというメリットがあります。不安症(パニック症や社交不安症、全般性不安症など)の第一選択薬は抗うつ薬ですが、効果を発するまで時間がかかるため、しばしば“補助的”に抗不安薬が使用されています。特に、急なパニック発作が生じた時のとんぷく薬としてよく使われています。また、うつ病や統合失調症、双極性障害の不安症状の改善、睡眠障害の治療にも使われています。脳の働きを抑制することで抗けいれん作用もあるため、けいれん発作の予防薬としても使用されています。

ただし、BZ受容体作動薬には依存形成されやすく、中断時に離脱症状が生じやすいという重大な副作用があり、社会問題になっています。特に多剤併用や長期使用で依存形成されやすいため、近年はなるべく少量を単剤で、短期間に限って慎重に使用するようになりました。薬剤による効き方の違いはあまりなく、多剤併用する意味は乏しいと考えられています。

BZ受容体作動薬は、作用時間の長短と、力価(有効成分の量)によって分類されています。ここでは、いくつかの薬剤について解説します。

エチゾラム

即効性があるため効果を実感しやすい薬で、パニック発作時のとんぷくとしてよく使われています。半減期(体内で薬の成分が半分になる時期)が6時間以内の短期作用型ですが、他のBZ受容体作動薬と同様、長期にわたって使用すると依存が生じるため、十分な注意が必要です。

ロラゼパム

比較的、作用時間が短い中期作用型の薬です(半減期は約12時間)。他のBZ受容体作動薬に比べ、おそらく鎮静作用が強いと考えられています。精神疾患による激しい症状に対し、特に入院治療でよく使われているようです。肝臓への負担が少ない特長もあります。

ジアゼパム

世界で最もよく処方されたBZ受容体作動薬とも言われます。半減期は27~35時間程度の長期作用型です。剤形が豊富(錠剤、散剤、注射剤、シロップ、座薬)であることも特徴的です。また、けいれんを止める効果が強いことも有名で、小児の熱性けいれんなどの治療に使われます。

クロルジアゼポキシド

長期作用型で、半減期は6.6~28時間と幅があります。不安や緊張などの症状を改善しますが、意識水準への直接的な影響は少ないとされています。また、他のBZ受容体作動薬に比べ、抗うつ薬の補助剤として使われることは少ないようです。

ロフラゼプ酸エチル

非常に作用時間が長い(半減期122時間±58.0時間)超長期作用型の薬です。半減期が長いため、1日1回の使用で十分なことがあります。他のBZ受容体作動薬より、服薬間の不安症状が少なくて済むことがメリットです。鎮静作用は比較的少ないものの、抗けいれん作用などが強い特徴もあります。

##参考文献 『治療薬マニュアル2020』(医学書院) 『精神科治療薬の考え方と使い方』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

抗不安薬の副作用(ベンゾジアゼピン受容体作動薬)

「抗不安薬」には、「ベンゾジアゼピン系」(ベンゾジアゼピン受容体作動薬:BZ受容体作動薬)と「非ベンゾジアゼピン系」の2種類があり、ほとんどが前者に該当します。例えば、エチゾラム、ロラゼパム、ジアゼパム、フルトプラゼパムなどが挙げられます。
BZ受容体作動薬は、神経伝達物質「GABA」のはたらきを増強することで、不安焦燥感や精神運動興奮、心身症などを軽減する作用があります。しかし、副作用が大きいため、なるべく少量を単剤で、短期間の使用に止めることが推奨されています。

BZ受容体作動薬の副作用でもっとも知っておくべきものが、依存形成です。この薬を飲まないと耐えられないと感じたり、減量や中止時に退薬症候(離脱症状)が現れたりします。退薬症候は、けいれん発作、せん妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想など、人によってさまざまです。
依存は、高用量・長期投与、あるいは多剤併用によって形成されやすくなります。しかし、承認用量の範囲内でも長期にわたって使用しているうちに依存が形成されることもあります(常用量依存)。また、自己判断で急激に中止することで、退薬症候が現れることもあるため、注意が必要です。

ほかにも、多くのBZ受容体作動薬は、副作用として鎮静が生じます。また、疲れやすさや抑うつ、ふらつき、忘れっぽさ、錯乱、過敏症なども、注意すべき副作用として報告されています。まれに、呼吸抑制、肝機能障害、腎機能障害、血液疾患など危険な副作用も生じ得ます。高齢者が使用すると、ふらつき、転倒、認知機能障害、せん妄などが問題になりやすいようです。

服薬後すぐに生じる副作用は、時間がたつことで消失していくことがあります。また、昼間に鎮静しないように、就寝前に投与するなど、医師が処方を工夫することもあります。

##参考文献
『治療薬マニュアル2020』(医学書院)
『精神科治療薬の考え方と使い方』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

抗不安薬の種類(非ベンゾジアゼピン系)
  • 非ベンゾジアゼピン系
  • タンドスピロンクエン酸塩
  • ヒドロキシジン

「抗不安薬」は、「ベンゾジアゼピン系」と「非ベンゾジアゼピン系」に分類され、ほとんどが前者に該当します。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は即効性があり、患者さんが効果を感じやすい半面、依存性や筋弛緩作用などの副作用が強いため、慎重に使用する必要があります。それに比べ、非ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は即効性がなく、効き目も穏やかですが、副作用が少なく、安全性が高いというメリットがあります。日本では、2種類の非ベンゾジアゼピン系の抗不安薬が使用されています。

タンドスピロンクエン酸塩

脳内のセロトニン受容体(5-HT1A受容体)に作用することで、抗不安作用と抗うつ作用を発揮すると考えられています。心身症(自律神経失調症、本態性高血圧症、消化性潰瘍)における身体症候ならびに抑うつ、不安、焦躁、睡眠障害神経症における抑うつ、恐怖などを改善します。
ただし、長く患っているケース(3年以上)や、重症例、ほかの薬で効果が不十分な例には、タンドスピロンクエン酸塩もあまり効きません。 安全性の高い薬ですが、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬から急激に切り替えるとベンゾジアゼピン系の退薬症候(離脱症候)が引き起こされ、症状が悪化することがあります。また、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIなど)と併用すると、セロトニン作用が強くなりすぎて、「セロトニン症候群」(興奮、ミオクロヌス、発汗、新鮮、発熱など)になる恐れがあります。

ヒドロキシジン

脳内の視床や視床下部、大脳辺縁系などに作用し、中枢抑制作用を発揮すると考えられています。神経症における不安・緊張・抑うつを改善します。術前術後の悪心、嘔吐の防止にも使用されます。 また、ヒスタミン1受容体を遮断する作用もあり、抗アレルギー薬としてじんましんや皮膚疾患の治療にも使用されます。安全性の高い薬ですが、抗ヒスタミン作用による鎮静を引き起こすことがあります。

##参考文献 『治療薬マニュアル2020』(医学書院)
『精神科治療薬の考え方と使い方』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)
医薬品インタビューフォーム タンドスピロンクエン酸塩錠、ヒドロキシジン塩酸塩錠

抗不安薬の副作用(非ベンゾジアゼピン受容体作動薬)

「抗不安薬」には、「ベンゾジアゼピン系」と「非ベンゾジアゼピン系」の2種類があります。前者は、不安を抑える効果が強い半面、依存形成などの副作用も強い問題があります。非ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、効果が弱いものの、依存性が低いところが長所です。しかし、まったく副作用がないわけではありません。

日本で認可されている非ベンゾジアゼピン系の抗不安薬には、「タンドスピロン」と「ヒドロキシジン」があります。 タンドスピロンは、神経伝達物質セロトニンにはたらきかけることで抗不安作用を発揮しますが、副作用として「セロトニン症候群」が生じる可能性があります。具体的には興奮、ミオクロヌス(不随意運動)、発汗、振戦、発熱などの症状です。ほかの副作用として、肝機能障害、黄疸が生じることもあります。また、この薬と抗精神病薬や抗うつ薬を併用したり、この薬を急激に中断したりすると、悪性症候群(発熱、意識障害、筋肉の硬直など)が生じる可能性もあります。

もう一つのヒドロキシジンは、脳の視床・視床下部、大脳辺縁系などにはたらきかけ、抗ヒスタミン作用を発揮する薬です。アレルギー症状の改善にも有効ですが、抗不安作用もあります。ただし、ヒスタミンの受容体を遮断するため、副作用として鎮静がよく見られます(通常は一過性)。また、重大な副作用として、ショックやアナフィラキシーが報告されています。心電図異常や肝機能障害、黄疸などの副作用も起こりえます。
2017年には、重大な副作用として「急性汎発性発疹性膿疱症」(高熱、重篤な皮膚症状)が追加されました。

非ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、比較的、安全性の高い薬ですが、身体に異変を感じたら早い段階で医師に相談してください。

##参考文献
『治療薬マニュアル2020』(医学書院)
『精神科治療薬の考え方と使い方』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)