こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

こころの病気の用語

こころの病気に関連する用語をわかりやすく解説します。

アウトリーチ

アウトリーチは「Out(外へ)reach(手を伸ばす)」という意味で、訪問型の支援サービスのことです。精神科領域では、精神科医や看護師、作業療法士、精神保健福祉士などさまざまな職種がチームを組み、支援が必要な人のもとを訪れます。実際に病気を経験したピアスタッフがチームに入ることもあります。 精神に困難を抱えている人の中には、自分から相談できずにいる人が少なくありません。治療を中断してしまった人、ひきこもり状態で孤立して生活に困っている人もいます。アウトリーチチームは保健所や地区町村などと連携して情報を集め、そうした人達に必要な支援を届けます。状況に応じて医療や福祉につなげることで、新たな入院や再入院を防ぎ、地域生活が維持できるように支えるのです。
『多職種アウトリーチチームによる支援のガイドライン』によると、アウトリーチの対象者は以下のような人達です。
統合失調症、双極性障害、重症うつ病などの診断名がつく人々で、障害のために、以下の状態のいずれかにある人々。
1.ひきこもり状態で、孤立していて、独力での生活の維持が困難な状態にある
2.1年以上の長期入院や1年間に複数回の入院や頻回の救急利用をするなどの状態にある

また、精神に困難のある人の家族も支援します。ケアが長期間にわたると家族も疲弊し、当事者との関係にひずみが生じる場合があります。そうした事態を解消するために、アウトリーチチームが家族の大変さに寄り添い、必要な支援を提供するのです。
一口にアウトリーチといってもさまざまな種類があります。例えば、医療機関のスタッフが出向く往診や訪問看護、保健師等や福祉スタッフの訪問支援。また、「ACT」(Assertive Community Treatment:アクト)と呼ばれる包括的地域生活支援プログラムを用いた支援をしているアウトリーチチームもあります。 ACTは、従来であれば入院が必要だった重度の精神障害のある人が地域で生活できるよう、24時間365日対応の手厚い訪問支援するプログラムです。訪問看護ステーションや相談支援事業者、在宅支援を行う精神科診療所などのアウトリーチチームが、その役割を担っています。
なお、アウトリーチには「精神障害者の地域移行」という目的もあります。精神に困難のある人がなるべく入院せず、地域で暮らせるようにし、多すぎると言われる精神科病床を減らすことを目指しているのです。厚生労働省は2011年度~2013年度にかけて「精神障害者アウトリーチ推進事業」と題するモデル事業を実施しました。今後、ますますの普及が期待されます。 「入院か通院か」という二者択一ではなく、その中間のような訪問型支援サービスは、精神に困難のある人が無理なく地域で暮らすために重要な役割を持っています。
※参考文献 『多職種アウトリーチチームによる支援のガイドライン』伊藤順一郎 編・監修

コンサルテーション

医療における「コンサルテーション」とは、医師などの専門家が患者さんの抱える問題を解決する過程で、他の専門家に相談することを指します。精神科領域では、内科や外科といった身体の診療科(身体科)の医師が、患者さんの精神面の問題について精神科医に相談することです。精神科的治療やケアの必要性、心理的支援などについてアドバイスを受け、診療に生かします。こうした連携のあり方を「コンサルテーション精神医学」と言うこともあります。主に総合病院における診療方法です。
対象になる疾患はさまざまですが、例えば手術のあとのせん妄(意識混濁、幻覚、錯覚などが現れる状態)や、がんの告知を受けたあとのうつ病、睡眠障害などが挙げられます。もともと精神疾患がありながら身体の疾患で入院している患者さんや、身体的な症状を訴えるのに身体面の異常が見つからない患者さんなども、精神科医に相談する対象となります。
近い概念で、「リエゾン精神医学」というものもあります。リエゾンとは「連絡」「連携」といった意味です。精神医学においては、身体科の医師と精神科医、加えて精神科の専門知識を持った看護師、精神保健福祉士、臨床心理士など多職種がチームを組んだ診療体制のことを指します。薬物療法、精神療法や心理療法、看護、社会的支援をどう生かすか、多角的に検討することが可能です。
コンサルテーションとリエゾンの違いとして、精神科医が関与するタイミングがあります。コンサルテーションは、患者さんに精神面の異常が見つかってから始動するため、往々にして精神症状が重くなっていることがあります。それに対し、リエゾンはあらかじめチームができており、定期的にカンファレンスを開いたり、病棟を巡回したりしています。精神面の異常の早期発見や予防を目的としているため、より軽症の段階で対応することが可能です。
ただし近年では、コンサルテーションとリエゾンをあまり区別しない傾向があります。両者を組み合わせた「コンサルテーション・リエゾン精神医学」(consultation-liaison psychiatry;CLP)を導入している医療機関が増えてきました。略して「リエゾン精神医学」とだけ呼称している場合が多いようです。
いずれにしても身体科と精神科が連携して診療することのメリットはたくさんあります。身体科のスタッフは精神症状への理解が深まり、精神科スタッフは仕事へのモチベーションが高まり、結果として医療の質の向上が期待されます。

アドボカシー

「アドボカシー」(advocacy)は、権利擁護や弁護をすることを意味します。日本では環境保護や人権保護などの分野でよく使われていましたが、近年は医療分野においても見聞きするようになりました。自分の意思を表明することが難しい患者さん(子ども、障害のある人、高齢者等)に代わり、病院から独立した第三者がその人の権利を擁護し、救済することを指します。
例えば、治療を受ける・受けない、入院する・しないなどについて人権侵害があった場合、第三者が患者さんの意思を病院側に伝え、権利を守るのです。患者さん自身が解決できるよう、援助することもあります。そうした取り組みを「ペイシェント・アドボカシー」ということもあります。
精神科医療は、疾患の状態によって患者さん自身の意思に反する入院(医療保護入院)が行われることがあります。その場合、入院時の手続きは精神保健指定医の判断と、家族等(配偶者、親権者、扶養義務者、後見人または保佐人。該当者がいない場合等は市町村長)の同意によって決まるため、患者さんの権利を守るアドボカシーは特に大切だと考えられています。
アドボカシーをする第三者、つまり擁護や弁護などをする人を「アドボケーター」や「アドボケイト」と言います。国は、精神科医療において、アドボケーターに関連した制度を作ろうとしています。
2013年に施行された改正精神保健福祉法では、精神科病院への入院中や退院時等に、患者さん自身が意思決定や意思表明ができるよう支援することが、検討課題になっていました。いくつかのモデル事業が実施され、その後、厚生労働省の事業の一環として、日本精神科病院協会が「アドボケーターガイドライン」をまとめました。ここでは、アドボケーターの定義を以下のように定めています。
アドボケーターとは、精神科病院に入院している者にとって、入院生活での困り事に対して信頼できる相談相手で、入院中の「説明が得られない」「聞いてもらえない」ことに対しても、本人の立場で気持ちや状況を理解し、必要に応じて代弁することで、本人が自分の気 持ちに正直に生き、主体的に精神科医療を受けられるように側面的に支援する者である。アドボケーターは、本人の話を先入観なく理解し、利害関係のない人がその任を担う。
アドボケーターの担い手としては、相談支援専門員や保健師、看護師、精神保健福祉士、ピアサポーターなどが想定されています。彼らが研修を受けてアドボケーターとなり、患者さんが希望すれば病院に出向いて30~60分程度、話を聞くことになっています。
ただし、このガイドラインによると、アドボケーターは患者さんに直接的な支援ができず、面会の結果を病院に報告することになっています。実施条件などを病院が決めることになっており、病院から独立したアドボケーターにはならないのではないか、と指摘もあります。日本におけるアドボケーター制度の導入にはまだ課題が残されているようです。
※出典 「入院に係る精神障害者の意思決定及び意思の表明に関するモデル事業報告書」 「入院に係る精神障害者の意思決定及び意思の表明に関するアドボケーターガイドライン」

ソーシャル・インクルージョン

「インクルージョン」とは「包摂(包み込む)」という意味で、「ソーシャル・インクルージョン」は「社会的包摂」という概念です。さまざまな理由で社会から排除されている人達を再び社会の中に受け入れ、彼らが尊厳ある暮らしができるようにすることを指します。社会政策の方向性としてよく使われる言葉で、所得補償や雇用、職業訓練、教育、住宅など社会福祉に関わる制度の整備を目指す意味もあります。もともと1980年代以降にヨーロッパで生まれた言葉で、移民を標的にした排斥運動などに対応する施策として提唱されるようになりました。
似た概念に「ノーマライゼーション」があります。こちらは1950年代にデンマークで誕生した考え方です。主に障害者を対象とし、「できるだけ健常者に近い生活を保証すべき」という概念です。これが、障害者の脱施設化や在宅ケアへとつながっていきました。 ソーシャル・インクルージョンはノーマライゼーションの発展型と言われています。より対象が広く、障害者のほか、女性や非正規雇用者、高齢者、少数民族、貧困状態にある人などマイノリティも含め、誰もが排除されない社会を目指す考え方です。
ソーシャル・インクルージョンの捉え方は国によって多少異なります。日本では2000年に厚生省(当時)の「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」が出した報告書に、ソーシャル・インクルージョンの必要性が書かれていました。 具体的には、「今日的な『つながり』の再構築を図り、全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う(ソーシャル・インクルージョン)ための社会福祉を模索する必要がある」としており、このために公的制度の柔軟な対応と、地域社会での自発的支援の再構築が必要であると報告されています。
2008年にはいわゆる「派遣切り」が社会問題となり、ソーシャル・インクルージョンが注目されるようになりました。2009年に成立した民主党政権は、社会的包摂を社会保障改革の主要な理念として位置づけ、さまざまな福祉政策を打ち出しました。 2012年に復活した自民党政権では、政策文書の中に「社会的包摂」という言葉があまり使われなくなりましたが、2015年に設置された一億総活躍国民会議で「ソーシャル・インクルージョン」の考え方が取り上げられました。その後、厚生労働省は全国の知事や市長に向けて「地域共生社会の実現に向けた地域福祉の推進について」という通知を出しています。そこには、「貧困や失業に陥った人々、障害を有する人々、ホームレスの状態にある人々等を社会的に排除するのではなく、地域社会への参加と参画を促し社会に統合する『共に生きる社会づくり(ソーシャル・インクルージョン)』という視点が重要である」と書かれています。
♯♯参考文献 『現代精神医学事典』(弘文堂) 『社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)政策の展開―我が国と諸外国の実践から―』(近藤倫子)

ソーシャルワーカー/精神保健福祉士(PSW)

ソーシャルワーカーは、社会的に排除されたり、生活に困ったり、あるいは精神的に不安を抱えたりしている人などの相談に乗り、問題が解決するよう援助する職業です。本人や家族の話を聞いて助言するほか、福祉機関または医療機関、他の行政機関などと調整を図り、必要なサービスにつなげます。
2014年には、国際ソーシャルワーカー連盟によって、ソーシャルワーカーの業務内容を以下のように定義づけられました。 「ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。」 ※ウェルビーイング(well-being)……人間が幸せであり続けている状態。
ソーシャルワーカーはさまざまな機関に在籍しています。代表的なところでは、福祉施設や医療機関、市区町村役場、教育機関などです。最近では企業やハローワーク、矯正施設(刑務所など)にも活躍の場が広がっています。在籍する機関によっては、ケースワーカーや生活相談員などと呼ばれることもあります。 日本国内では、無資格でもソーシャルワーカーを名乗ることができます。しかし、多くの場合は「社会福祉士」(Certified Social Worker:CSW)または「精神保健福祉士」(Psychiatric Social Worker:PSW)という国家資格を持つ人が、その仕事を担っています。
精神疾患に関する支援は、精神保健福祉士が専門です。精神保健福祉士は、うつ病や統合失調症、認知症、各種依存症、PTSDなど、精神の病気や障害について専門知識を持ち、心理学の理論も身につけています。 医療職ではないので、医師の指示で業務をするわけではありませんが、主治医がいる場合はその指導を受けることになっています。医療機関の精神保健福祉士は、医師や看護師、臨床心理士などと他職種のチームを組んで治療にあたっています。
企業で働く精神保健福祉士は、従業員のメンタルヘルス問題を支援する「従業員支援プログラム」(Employee Assistance Program:EAP)や、メンタルヘルスの問題で休職している従業員の職場復帰を支える「リワークプログラム」に携わることが増えてきました。
なお、精神保健福祉士になるには、大学や短大、専門学校で指定科目を履修(実務経験が必要な場合もある)したうえで、精神保健福祉士国家試験に合格しなければなりません。2017年時点で79,432人が合格しており、合格率は62.6%です(厚生労働省発表資料)。
※参考文献 『現代精神医学事典』(弘文堂) 『第19回精神保健福祉士国家試験合格発表』(厚生労働省) こころのはなし こころの病気の知識 こころの病気のはなしこころの病気のはなし-2こころの病気のはなし-3精神科の薬について障害者雇用についてこころの病まめ知識福祉用語の基礎知識 お役立ち情報自立支援医療制度デイケア社会資源情報社会資源情報こころの健康アラカルトクリニック広場デイケア通信患者様の活動リンク集 トップページへ

リワークプログラム(復職支援プログラム)

リワークは「return to work」の略で、うつ病やうつ状態などで休職している人が復職(職場復帰)することを意味します。リワークプログラムは、スムーズな復職を支援するプログラムです。うつ病やうつ状態での休職は、病状が快復したと思って復職しても再発して再休職、あるいは退職するケースが多く見られます。しかし、リワークプログラムを受けることによって、再休職率が低下するという研究報告があります。 リワークプログラムの実施機関は3種類、①医療機関、②地域障害者職業センター、③企業があります。それぞれ、対象者や費用、プログラム内容などが異なります。
◎リワークプログラムについてはこちらもご参照ください。

(1) 医療機関によるリワークプログラム
精神科の病院やクリニックで実施するリワークプログラムは、精神科医や看護師、精神保健福祉士、作業療法士、心理職などの専門職による医学的なリハビリテーションです。ものごとの受け取り方や考え方のクセを自覚し、修正する認知療法や、うつ病などに関する知識を深める心理教育、対人交流を経験するグループワークなどが行われます。また、適切な睡眠リズムを整えるなど、日常生活の改善についての指導もあります。 うつ病等で休職中の人が、医師に必要性を認められた場合に受けることができます。国民保険や社会保険の対象で、これらの保険に入っている人は費用が3割負担になります。自立支援医療の対象者は1割負担で利用できます。

(2) 地域障害者職業センターによるリワークプログラム
地域障害者職業センターは、障害のある人に対する職業リハビリテーションや、事業者に対する障害者雇用の相談・援助などを行う機関です。ここでは雇用保険適用事業所の社員のみを対象に、「職場復帰支援(リワーク支援)」が行われています。 同センターの職員が、休職している本人と事業者の両方に助言・援助を行う点が特徴です。本人に対しては生活リズムの改善やストレス対処、キャリアの検討などについてアドバイスし、事業者に対しては職務内容や労働条件、職場環境について必要な対策を求めます。 雇用保険で費用が賄われるため、利用者の費用負担はありません。

(3) 企業によるリワークプログラム
休職している本人の勤務先企業によるリワークプログラムです。厚生労働省は企業に対し、休職者が復職する際の標準的な流れを定めた「職場復帰支援プログラム」を作成するよう、求めています。同プログラムを設けている企業は、対象となる従業員ごとの「職場復帰支援プラン」を作成します。同プランで定めた職場復帰日、管理監督者による就業上の配慮、人事労務管理上の対応などを考慮しながら、企業内での復職支援が行われるのです。利用者の費用負担はありません。

※参考文献
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
一般社団法人日本うつ病リワーク協会事務局
『現代精神医学事典』(弘文堂)

長谷川式簡易知能評価スケール

「長谷川式簡易知能評価スケール」は、認知症の可能性があるかどうかを、簡易的に調べる問診項目のことです。主に医師が診察の一手段として使用します。医療や介護の現場では「長谷川式」あるいは「長谷川式認知症スケール」とも呼ばれます。1974年に長谷川和夫氏(精神科医、認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長)らが開発したことから、この名称がつけられました。1991年に加藤伸司氏(臨床心理士、東北福祉大学教授、認知症介護研究・研修仙台センターセンター長)らによって質問内容や採点基準が見直され、「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」(HDS-R)に変わりました。

HDS-Rは、一般の高齢者から認知症のある人をスクリーニング(ふるい分け)することを目的にしたもので、これだけで認知症かどうかを診断することはできません。確定診断は、専門医の診察が必要です。 質問項目は以下の9問で、見当識(時間、場所、状況などの認知)や、記憶に関することを聞きます。正しくできたら1点、できなかったら0点などと数値化し、30点満点中20点以下の人は認知症の疑いが高いと判断されます。回答にかかる時間は、だいたい5~10分です。

1) 年齢
例:お歳はいくつですか? ※2年までの誤差は正解とみなします。

2) 時間
例:今日は何月何日、何曜日ですか?

3) 場所
例:今、私たちがいる場所はどこですか? ※場所の名前や住所まで言えなくても「病院にいます」「施設にいます」などと答えられれば正解とみなします。

4) 3つの言葉の記憶
例:「これから言う3つの言葉を覚えてください。あとからまた聞きます」 ※このように言って、「桜・猫・電車」または「梅・犬・自動車」のどちらかを覚えてもらいます。

5) 計算
例)100引く7はいくつですか?

6) 数字を覚え、逆順に復唱する
例:次の数字を逆から言ってください。2、8、6。

7) 3つの言葉の思い出せるかどうか
例:先ほど覚えてもらった3つの言葉は何でしたか?
※質問4で使用した言葉を、もう一度言ってもらう。

8) 5つの品物の名前の記憶
例:これから5つの品物をお見せします。それを隠しますから、何があったかを言ってください。
※時計、消しゴム、鍵など無関係のものを5つ用意し、名前を言いながら目の前に並べます。並べ終わった1つずつ手に取って「これは?」と聞き、正しく答えられたことを確認してから全て隠します。その後、何があったか言ってもらいますが、思い出す順番はどうでも構いません。

9) 言葉の流暢性(素早く、数多く言えるかどうか)
例:知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。
※6個以上答えられたら1点ずつ加点します。

これらの質問は、必ずしも順番通りに聞く必要はありません。日常会話に織り交ぜながら、聞きやすいものから聞いてもいいとされています。しかし、質問4~7は順番通りに聞くことになっています。

なお、開発者の長谷川氏自身が認知症であることを、2017年に公表しました。その後、2018年3月16日の朝日新聞で、HDS-Rについて「安易に使われすぎて、本人の気持ちを考えずに検査をする医者がいる。質問で『お年はいくつですか』と、のっけから大事な個人情報を聞く。それからいい大人に『100から7を引くと、いくつですか』とも尋ねる。『冗談じゃない、何を言っているんだ』と怒るのは当然でしょう。診察に必要だからと、医者の側が本人と家族に協力をお願いする姿勢が、必要なんだ」と語っています。

認知症の検査が患者さん本人を不安にさせたり、気分を害したりする問題は、ほかにも指摘する声がありました。そのため、HDS-Rを行うときは、いきなり「認知症の検査をします」と言うのはなく、しばらく世間話をしたり、「最近物忘れが気になりませんか?」などと話したりして、患者さんの気持ちを解きほぐすことが大切です。すべて回答が終わったあとは、質問9の「野菜」に関連した会話を続けるなどして、嫌な気分のまま終わらせないための配慮も必要とされています。

なお、最近では新しいタイプの認知機能評価法が登場しています。大庭輝氏(京都府立医科大学特任助教)らの研究グループが開発したもので、「CANDy:Conversational Assessment of Neurocognitive Dysfunction」(キャンディ、日常会話式認知機能評価)と言います。年齢や日時など決まった質問をするのではなく、普段の会話から認知症の可能性を判断できることが特徴です。会話の内容を記録し、認知症の人によく見られる特徴である「今の時間や日付、季節などがわかっていない」「先の予定が分からない」「話が続かない」などの15項目に該当するかどうかを数値化します。健康な人で実施した場合は平均1.4点で、認知症の患者さんでは平均13点でした。この点数から認知症かどうかを正しく推定する精度は80~90%とされています。今後、医療機関や介護の現場での活用が期待されています。

参考文献
『改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の使い方』(加藤伸司)
CANDy公式ホームページ
朝日新聞(2018年3月16日朝刊)
日経新聞(2017年12月26日朝刊)
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神経衰弱

神経衰弱は、かつて多くの国々で病名(診断名)として扱われていましたが、現在では「文化結合症候群」(特定の国や地域、民族、文化環境において発生しやすい精神障害)の一つと位置づけられています。 もともと神経衰弱は、アメリカの医師ビアドが1868年以降に提唱した概念で、神経過敏、頭痛、めまい、神経痛、不眠、消化不良、疲労感、心気的訴え、集中力低下、記憶力低下など50を超えるさまざまな症状を意味していました。当時のアメリカは急速な経済発展を遂げており、人々は個人的な感情を抑えて、スピーディーかつ大量に仕事をこなすことを求められるようになりました。そうした社会的な要因が「神経の力」を減少させるために生じる病気と考えられていたのです。

その後、ヨーロッパや日本、中国などにも神経衰弱の概念は受け入れられましたが、ヨーロッパや日本では20世紀のうちに診断名として用いられることはほぼなくなりました。神経衰弱ではなく、うつ病などと診断されるようになったためです。 WHOの診断ガイドライン『ICD-10』には、「その他の神経症性障害」のなかに神経衰弱の項目が残されています。そこには、「さまざまな施設で行われた調査では、神経衰弱と診断された患者は、かなりの割合でうつ病、不安状態にも分類しうることが証明されている」と書かれています。しかし、どの病気の診断基準にも該当せず、神経衰弱の診断基準をすべて満たすような症例も存在するそうです。神経衰弱の診断基準は、何か努力をしたあとに、精神的あるいは肉体的な苦痛や疲労感、衰弱などが続き、他の疾患の診断基準に該当しないことを特徴としています。

ICD-10における神経衰弱に当てはまる患者さんは、中国などに多く存在すると考えられています。『中国精神疾患分類』(CCMD)では、神経衰弱について「衰弱」(例:精神的疲労)、「情動」(例:いらいらした感情)、「興奮」(例:増える回想)、「神経痛」(例:頭痛)、「睡眠」(例:不眠)という5つの症状のうち3つで構成される症候群と定義されています。中国の伝統的な解釈では、慢性的な欲求不満や苦痛、社会的・対人的ストレスにさらされた結果、神経衰弱が生じるとされています。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)『現代精神医学事典』(弘文堂)

神経伝達物質

私たちが喜怒哀楽を感じたり、さまざまなことを考えたりする時、脳内では「神経伝達物質」が行き交っています。神経伝達物質は「シナプス」という神経細胞と神経細胞を接続する部分から分泌され、ほかの神経細胞の受容体に触れることで情報を伝達します。 これまで数十の神経伝達物質が特定されており、アミノ酸類(グルタミン酸、γ-アミノ酪酸、グリシンなど)、モノアミン類(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン、アセチルコリンなど)、ペプチド類(エンドルフィン、サブスタンスP、バソプレシン、ソマトスタチンなど)に大別されます。 なかでも、以下のモノアミン類は精神疾患に深く関係していることが分かっています。

セロトニン
精神を安定させるはたらきのある神経伝達物質です。脳内の視床下部や大脳基底核・延髄の縫線核などに多く分布しています。普段は、同じモノアミン類のドーパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)の情報を適度に抑えていますが、セロトニンが低下すると攻撃的になったり、不安やうつ、パニック発作などを引き起こしたりするといわれています。

ドーパミン
喜びや快楽などを感じさせる神経伝達物質です。脳内の報酬系という神経系に深く関わっています。例えば、お酒を飲むことによって快く感じるのは、ドーパミンが放出されて報酬系が活性化するためです。何らかの物質などの依存症になるのは、それが本人にとってドーパミンを活発化させるものだからと考えられます。 また、ドーパミンは黒質線条体路、中脳辺縁系路、中脳皮質路の3つの神経経路ではたらいています。黒質線条体路はパーキンソン病と関連し、中脳辺縁系路と中脳皮質路は統合失調症と関連すると考えられています。

ノルアドレナリン
恐怖や驚き、興奮などを感じさせる神経伝達物質です。精神的・身体的ストレスを感じた時に放出され、交感神経を活性化させます。交感神経は体を活動的にする神経で、血圧や脈拍を上昇させます。そのため、ノルアドレナリンのはたらきのバランスが崩れると、神経症やパニック障害・うつ病などを引き起こすと考えられています。

なお、多くの神経伝達物質はシナプスの中で合成されますが、外部から取り込まれるものもあります。 また、精神疾患の治療薬には、モノアミン類の作用を促進したり、阻害したりする仕組みのものがいくつもあります。

※参考文献 『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル) 『現代精神医学事典』(弘文堂) 『e-ヘルスネット』(厚生労働省)

めまい

● 症状

めまいは、頭や体がふらふらしたり、目が回ったりすることの総称ですが、症状の現れ方によって分類されています。

◎真性めまい
回転性めまい……回転感(目が回る、体がぐるぐる回る、体が一方に引っ張られていく、天井が回るように感じる、周囲が流れるように見える))などが主な症状です。吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
非回転性めまい……浮動感(上下・前後などにふわふわ体が動くように感じる)や失神しそう、体がふらふらするように感じるなどが主な症状です。

◎仮性めまい
頭から血の気が引いたように感じて一瞬意識がうすれる、目の前が真っ暗になったように感じるなどが主な症状です。

◎平衡失調
体の平衡(バランス)を取りにくく感じ、つまずきやすくなったり、歩きにくくなったりします。

● 原因

めまいの原因はさまざまで、耳や脳、その他の体の疾患、精神障害が関係します。 一般に、回転性めまいは内耳や脳の中枢の疾患が原因になっていることが多いとされています。よくある耳の疾患には、メニエール病、前庭神経炎、良性発作性頭位めまい、内耳炎、突発性難聴などが挙げられます。脳の疾患としては、脳出血や脳梗塞などがあります。どちらかというと急性期の疾患が関係していることが多いようです。 非回転性めまいも耳や脳が原因となっているものの、内耳の疾患が急性期を脱したときや、聴神経腫瘍、小脳腫瘍などが関係していることがあります。 平衡機能障害は、内耳の前庭機能の障害や、脳の聴神経腫瘍、脊髄小脳変性症などが関係しています。 仮性めまいは、耳や脳の障害とは関係ないことが多く、低血圧や高血圧、自律神経失調症などに伴っておこります。

上記にあてはまらない場合は、緊張性頭痛や肩こりが原因の可能性があります。あるいは、貧血や低血糖などの内科的疾患、うつ病や不安障害など精神障害に伴って生じるめまいであることが考えられます。
なお、めまいはよくある症状ですが、しばしば内科や耳鼻科、神経内科など複数を受診しながら正しく診断されないことがあります。医療機関で過去の病歴をしっかり話すことが、正しい診断につながります。

● 他の病気との関係

めまいの原因の約1/3は心因性という報告もあります。 パニック障害は、動悸や息切れのほかに、めまいを感じることがあります。また、全般性不安障害は極度の緊張からめまいや動悸、ふらつきなどが引き起こされます。ほかに、うつ病、適応障害、心気症などでも動悸やめまいが現れることがあります。

● 治療

耳が原因の場合は耳鼻科で、脳が原因の場合は脳外科や神経内科などでそれぞれの病気の治療が行われます。 めまい外来を設けている医療機関もあります。精神障害が原因の場合は精神科において、もととなる病気を治すための薬物療法や精神療法が行われます。

※参考文献 『現代精神医学事典』(弘文堂) 『看護・医学事典』(医学書院) 『みんなのメンタルヘルス』(厚生労働省) 『家庭医学館』(小学館)

被害妄想

● 症状

実際にはそうではないのに、誰かから嫌がらせをされたり、バカにされたり、危害を加えられたりしているなどと確信することの総称。統合失調症や妄想性障害などでよくみられる症状です。 被害妄想はしばしば怒りや不満、刺激に対する過敏さを伴っています。そのため、周囲の人を敵であると思い込み、相手を攻撃することがあります。殴ったり、怒鳴ったりするほか、妄想の相手を裁判に訴えることまであります。そのため、人間関係に支障をきたし、職を失ったり、家族から見放されたりする患者さんもいます。

被害妄想には、さまざまな種類があります。 例えば、誰かから迫害されていると思う迫害妄想、対人関係において不愉快なことをされていると思う関係妄想、配偶者やパートナーが浮気をしていると思う嫉妬妄想、誰かから監視されていると思う注察妄想、ものを盗まれると思う盗害妄想などが挙げられます。

このうち、特に多いのは関係妄想です。身近な人やたまたま居合わせた人の何気ない行動を、自分に対する嫌がらせや攻撃と捉えます。例えば、レストランで隣になったお客さんが、自分をみてクスクス笑っていると信じ込むことがあります。会社の同僚が廊下ですれ違ったとときに睨んでいると感じ、自分を陥れようとしているに違いないと確信することもあります。
他に、迫害妄想もよくある被害妄想です。他のタイプの被害妄想よりいっそう被害感が強まったもので、何者かが自分に放射能をかけている、悪い組織の陰謀に巻き込まれているなどと信じます。迫害の対象が拡大して「町ぐるみで嫌がらせをしてきている」と発展することもあります。また、自分の考えや行動は何者かによって操られていると思う「させられ体験」(作為体験)が伴う人もいます。

● 他の病気との関係

被害妄想は妄想性障害の典型的な症状です。その場合は、関係妄想や嫉妬妄想がよくみられます。また、統合失調症では特に発症年齢が高い人において、被害妄想がよく生じます。他に、精神遅滞、薬剤性精神病、てんかん、認知症、覚醒剤中毒やアルコール使用障害などにも被害妄想が伴うことがあります。 難聴者、ろうあ者、言葉の通じない外国移住者など、周囲と意思疎通が図りにくい状況において迫害妄想がみられることも報告されています。

● 原因

被害妄想の発生には、性急な結論バイアス(少ない情報ですぐに結論を出してしまうくせ)や、何かを強く信じやすい、思い込みが激しいなどの認知の障害が関係していると考えられています。

● 治療

精神科において、被害妄想の原因となっている精神疾患を治療します。薬物療法や認知行動療法などを行います。

※参考文献 『現代精神医学事典』(弘文堂) 『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル) こころのはなし こころの病気の知識 こころの病気のはなしこころの病気のはなし-2こころの病気のはなし-3精神科の薬について障害者雇用についてこころの病まめ知識福祉用語の基礎知識 お役立ち情報自立支援医療制度デイケア社会資源情報社会資源情報こころの健康アラカルトクリニック広場デイケア通信患者様の活動リンク集 トップページへ

抑うつ神経症

● 症状

抑うつ神経症は、常日頃から抑うつ的な気分に陥っている状態を指す言葉です。神経症性うつ病とも言います。1980年以前は、精神医学の臨床現場でもよく用いられていました。しかし、同年に発行されたアメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル『DSM-III』(第3版)で抑うつ神経症という言葉の記載がなくなり、気分変調性障害(または持続性抑うつ障害)へと含められました。 『DSM-III』では、それまで「~精神病」や「~神経症」と分類されていた病名を見直し、「~障害」という表現で統一しています。例えば、不安神経症はパニック障害や全般性不安障害、強迫神経症は強迫性障害と呼ぶようになりました。抑うつ神経症も、その流れで気分変調障害と呼ばれるようになったのです。 WHOの診断ガイドライン『ICD-10』では、気分変調性障害を気分変調症と分類しています。
ちなみに、似た概念として「抑うつ反応」がありますが、こちらは何らかのストレスによってうつ状態が引き起こされたことそのものを指す言葉です。
気分変調障害の典型的な特徴は、ほぼ1日中、抑うつ気分が続く状態が長期間(2年以上)にわたることです。自分は社会に不適応だ、すべて自分が悪いなどと感じたり、ささいな刺激に過敏になったり、怒りっぽくなったりします。それまで興味のあったことへの関心も薄れ、活力がなくなり、仕事や生活上の生産的な活動ができなくなったりもします。人によっては引きこもり状態になります。

不活発、無力感、快感消失、自尊心の低下に苦しむ点は、うつ病と重なる症状です。しかし、うつ病とはまったく別の疾患です。うつ病は食欲や性欲の低下、焦燥感、精神運動の制止(なにも考えられなくなる)といった客観的にもわかる症状が現れるのに対し、気分偏重障害は「気分が落ちこんでいる」という主観的な症状が中心で、それを自ら訴えることが多い障害です。落ち込みの度合いはうつ病より軽く、しかし長期間にわたる点が特徴的です。
気分変調障害は、どういう病気か明らかになっていないところも多いものの、若い世代のほか、中年期や高齢期にも似たような疾患(気分変調障害の亜型)になる例が報告されています。 なお、気分変調障害の患者さんは、家族にうつ病や双極性障害にかかっている人が多いことがわかっています。

※参考文献 『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル) 『現代精神医学事典』(弘文堂)

抑うつ的反芻

● 症状

抑うつ的反芻(rumination:ルミネーション)は、何度も同じことを思い出して考え、悩み続けて、抑うつ気分を増長させることを指します。もともと反芻(はんすう)とは牛などの動物が、一度飲み込んだものを胃から口に戻し、繰り返し噛むことです。抑うつ的反芻は、動物の反芻に似た精神行動であることから、この名称が付けられました。

抑うつ的反芻は、うつ病と深い関係があると報告されています。日頃からネガティブな反芻をする人は落ちこみやすく、ストレスに対して抵抗力が弱い傾向があるのです。精神的な反芻を続けているうちに、抑うつ的な気分がどんどん強くなり、身体的な活動量が減り、うつ病につながってしまいかねないと考えられています。そのため、精神医学ではしばらく前から、危険な精神的習慣とみなすようになってきました。うつ病を防ぐためには、精神的な反芻を意識的にしないことが必要と言えるでしょう。

抑うつ的反芻には、「reflection:リフレクション」と「brooding:ブルーディング」の2種類があります。リフレクションは「どうして自分はこんなに落ちこんでいるのだろう」「なにがダメだったんだろう」などと反省し、熟考することで、うつ病との関係は低いと考えられています。むしろ、次の失敗を防ぐためにプラスの影響がある可能性も残されています。 もう一つのブルーディングは「考え込み」とも言われ、「自分が置かれていた状況がいかに理不尽だったか」「もっとこうだったらよかったのに」などという不満を膨らませる現象です。こちらはうつ病との関係が強いと考えられています。

なお、強迫性障害のある人などには「精神反芻」という現象もよく見られます。抑うつ的反芻と同じようなもので、一つのテーマにこだわり、延々と考えを巡らせることです。強迫的に考え続けますが、結論が出ることはありません。詮索癖(小さなことが気になって、詮索したくなる)と同じ意味として使用される言葉でもあります。

● 治療

抑うつ的反芻が深刻な場合は、メンタルクリニックなどで治療を受けます。その場合、認知行動療法を用いて、自分の考え方のクセを見つけ出し、物事をネガティブに考える傾向から脱する練習をすることがあります。

※参考文献
『現代精神医学事典』(弘文堂)
『日本語版Ruminative Responses Scaleの下位尺度と自己志向的完全主義の関連性:考え込みと反省的熟考の比較』(長谷川晃:2013)

MMSE(ミニメンタルステート検査)

MMSEは日本語で「精神状態短時間検査」と言って、10~15分程度の短い時間で認知機能の障害があるかどうかを調べる検査です。米国のフォルスタイン夫妻が入院患者の認知障害を測定する目的で作り、1975年に公表しました。認知症のスクリーニングテストとしては、世界的にもっともよく活用されています。日本語版は、2006年に杉下守弘医師が翻訳した「MMSE-J」があります。
MMSEの評価項目は11問で、見当識や単語の記銘、計算、図形の描画などで構成されています(詳細は下記参照)。30点満点中、23点以下で認知症の疑い、27点以下は軽度認知障害(MCI)の疑いがあると判断されます。

● MMSEの評価項目の構成

  • 見当識
    <時に関する見当識>「時」に関するいくつかの質問に答える
    <場所に関する見当識>「場所」に関するいくつかの質問に答える
  • 記銘 いくつかの単語を繰り返して言う
  • 注意と計算
    <シリアル7課題>暗算で特定の条件の引き算をする
    <逆唱課題>特定の単語を後ろから言う
  • 再生 「記銘」で使用したいくつかの単語を言う
  • 呼称 日常的にありふれた物品の名称を言う
  • 復唱 教示された頻繁には使われることのない文を正確に繰り返す
  • 理解 教示されたいくつかの命令を理解し実行する
  • 読字 紙に書かれた文を理解し実行する
  • 書字 筋が通った任意の文を書く
  • 描画 提示された図形と同じ図形を書く

ただし、MMSEはあくまでスクリーニングテストであって、特定の集団の中から認知症のリスクの高い人をふるいにかけることを目的にしています。認知機能の低下を早期発見はできますが、確定診断はできません。MMSEで認知症や軽度認知障害(MCI)の疑いが見つかった人は、医師の診察を受けることが大切です。

なお、認知症があっても軽症の場合や、健康な時の能力が高い場合はMMSEの得点が高くなりやすく、テストとしての診断率が低いと言われています。逆に、認知症が軽度でも言語障害がある場合は低得点の傾向が報告されています。その場合は、MMSEにほかの神経心理学的検査を加えると診断率が高まります。例えば、トレイルメーキングテスト(TMT)といって、紙にランダムに書かれた数字を1から順番に線でつないだり、数字と平仮名を「1―あ」「2―い」と規則的につないでいったりする検査。あるいは、語列挙課題といって、1分間にできるだけ多くの言葉を列挙する検査などが用いられます。

※参考文献
『認知症疾患診療ガイドライン2017』(日本神経学会)
『現代精神医学事典』(弘文堂)
『MMSE-J 精神状態短時間検査 カタログ』(日本文化科学社)